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昭和の銀行建築をリノベーション。尾道に誕生した街と旅人をつなぐスモールホテル「Arbor Onomichi」【2/4ページ】

銀行建築の記憶を活かす

 館内は、印象的な天井高や2階部分のキャットウォーク、柱を置かないフラットな構造など、昭和の銀行建築の特徴を色濃く残している。エリア特性を重視し、地域の人々の記憶に残る物件の個性をなるべく活かすかたちで設計が進められた。

天井高のある開放的なラウンジ。キャットウォークもそのまま残されている
天井の梁は残されており、空間に重厚感をもたらす
手すりや一部の床部分はそのまま活用されている

 ホテル全体のデザインディレクションおよび空間デザイン、家具照明の選定を担当したデザイン事務所「根を這う」の須藤修は、建築の耐久性において補強が必要な部分はアップデートしつつも、外観、梁、階段の手すり、床面など、建物のアイデンティティを形成する要素を最大限に残した。強固な外壁に対し、内装には経年による脆さも見られたため、そのギャップを埋めていくような作業だったという。

 デザインにあたり意識したのは、銀行特有の「無機質で厳格な空気感」を和らげ、「人の温かさ」を感じさせる空間づくりだ。照明や家具には、均一的なものはあえて用いず、それぞれに個性や手触りのあるものを採用した。

 その結果、1階の元銀行窓口エリアは、天井近くまで伸びた窓から自然光が明るく差し込むラウンジへと生まれ変わった。開放感がありながらも、外観の重厚感を裏切らない温かみが残る。元銀行の特徴でもある巨大な金庫もそのまま残されており、現在はスタッフ用のバックヤードとして活用されながら、空間に独特の風格を添えている。

銀行で使われていた椅子をリペアし再利用、テーブルは天板を新規制作している
あえてテーマカラーを限定していない同館には、カラフルで個性的な家具や照明が点在している
元銀行の特徴でもある巨大な金庫。現在はスタッフのバックヤードとして活用されている

 ラウンジに配された家具はカラフルであるが、いずれも落ち着いた色調で統一感がある。須藤は、あえて館内のテーマカラーを限定しなかったという。そこには、宿泊者や地域住民がそれぞれの目的で過ごせる自由な場所であるために、多様な色を散りばめて空間にグラデーションを生み出したいという意志が込められている。

 ラウンジに併設された「BERTH COFFEE 尾道」では、スペシャルティコーヒーや自社製造の焼き菓子、こだわりのモーニングを提供。夜は「SMALL PUB Inlet」へと姿を変え、タップビールや国産クラフトビール、ナチュラルワイン、焼酎などを楽しめる。席ごとにデザインが異なるため、その日の気分でお気に入りの特等席を選ぶのも楽しみのひとつだ。