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「開館40周年記念 路傍小芸術」(新潟市美術館)開幕レポート。いつもそばにあったものを憶えていたい【4/5ページ】

 金沢市の金沢駅前に2020年まで存在した「駅前シネマ」は、実験的な映画企画や映画批評誌の刊行でも知られていた。同館の1975年から10年間ほど、上映企画のポスター制作を担ったのが「架空線工房」という三人組の青年集団だった。「映画をポスターで語る」という意欲のもとに生み出されたそのポスターは、たんなる映画の紹介ではなく、各企画の作品をつなぎ止めている文脈が立ち表れている、極めて批評的なものだ。会場では12枚のポスターが展示されているが、175点が当時のメンバーの手で保存されているといい、その全容をいつか紹介したいと藤井は語った。

展示風景より、「駅前シネマ」の上映企画のポスター群

 創業60年近い老舗の大衆割烹「大佐渡たむら」。創業者であり先代店主の田村信郎は、ゴム板やビニールテープから文字を切り出し、プラスチック板に貼り付けることで独特のお品書きをつくっていた。その字は味わい深く、どこか料理の味をも想起させるような奇妙な魅力を放っている。

展示風景より、大衆割烹「大佐渡たむら」のお品書き

 1964年6月16日に発生した新潟地震は26名の死者を出し、石油コンビナートで大規模火災が発生、液状化も広範囲で起き、避難を余儀なくされた人々が数多くいた。被害を受けた南万代小学校の6年2組の生徒たちが、翌年の卒業記念にこの地震の記憶をそれぞれ版画にし、版画集を制作している。本展ではこの版画集より46点が展示されており、当時の子供たちの不安な心情や、渦中でも希望を失わずに協力し合う様子などが、生き生きと擦られている。防災につながる災害の伝承が、このような創作のかたちで可能であることをいまに伝えてくれる。

展示風景より、南万代小学校6年2組の生徒による新潟地震の記録版画

 関越自動車道の越後川口サービスエリアは1982年にオープン。その当時から勤務している水落裕子は、エリア・コンシェルジュとしてサービスエリアを訪れる人々の案内をしている。水落は仕事の傍ら、88年より毎月、新潟エリアのイベント情報を手描きのポスターでまとめて掲示してきた。水性のサインペン「ポスカ」を使用し、緻密に詰まった文字の構成だけで様々なディテールを表現したこのポスターは、その卓越したデザイン性から、やがて広く知られるようになる。デザインを学んだことはないという水落の生み出した唯一無二のポスターは、今年3月の水落の退職後には見られなくなるかもしれない。しかし「その創作が何らかのかたちで続いてほしい」と藤井は語る。

展示風景より、関越自動車道越後川口サービスエリアの案内ポスター

 鉄道駅に直結していないながらも、延長330メートルという規模を誇った新潟の地下街「西堀ローサ」は、中心市街の移動もあり昨年3月までで全店が営業を終了し、老朽化もあり閉鎖された。同地下街に隣接する地下駐車場も閉鎖されたが、藤井はこの駐車場にあった壁画に着目した。鑑賞が目的ではなかった壁画だが、多くの市民の目には触れていたはずで、美術館という場でその意匠を改めて確かめてみるという試みになっている。

展示風景より、西堀地下駐車場の壁画の写真展示

 なお、駐車場壁画のそばでは、越後の珍奇な風物や怪異譚を記した江戸時代刊行の『北越奇談』も展示されている。当時は江戸からはるか遠い場所であった越後は、本書によってことさらに奇妙な場所として映っただろう。まるで本展で新潟の知らなかった表現者と出会う来場者のように。

展示風景より、『北越奇談』

編集部