新しい時代の「理想の美術館像」とは何か?

新しい時代において、美術館はどのような姿を目指すべきなのか、現場を知るキーパーソンたちが集い、それぞれの視点から「理想の美術館像」を語り合った。参加者は、森美術館館長で文化審議会第4期文化経済部会アート振興ワーキンググループ(WG)座長の片岡真実、滋賀県立美術館ディレクターの保坂健二朗、文化庁の林保太、そしてPwCコンサルティングのミュージアムなど文化・芸術関連のコンサルタントである関谷泰弘。対談では、今の社会に必要とされる美術館とは何か、次の時代に向けて描くべきビジョンとは何かを掘り下げていく。

聞き手=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長) 構成=山内宏泰

左から、林保太、片岡真実、保坂健二朗、関谷泰弘

──なぜこのタイミングで文化審議会第4期文化経済部会アート振興ワーキンググループ(WG)から「我が国における理想の美術館像について」という報告書が出されたのか、その背景を教えてください。

片岡真実(以下、片岡) 文化審議会の文化経済部会、その下に「アート振興ワーキンググループ」があります。今回の報告書はその第4期の発表となります。これまで数年にわたり議論を重ねてきて、アート振興における課題・問題点は整理を進めました。課題は浮き彫りになったので、次には何を目指すのかというビジョンがないと先が進めないと考えました。そこで「理想の美術館像」を見定めようということになりました。高い理想を掲げるというより、「あるべき姿」を描いたつもりです。次に到達すべきかたちを示すほうが政策提言として意味がありますから。

WGの座長を務める森美術館館長の片岡真実

──同報告書は、理想の美術館実現へのポイントとして「明確なミッション・ビジョン・バリューの定義付け(再定義)」や「3つの多角化(美術館/ミュージアムの枠組みを再考・多角化、組織の多角化、収入構造の多角化)」を挙げるなど、踏み込んだ内容が盛り込まれています。

片岡 何を変える必要があるのか改めて問うてみると、構造改革をしないと課題解決には至らないということになりました。ここは抜本的に、美術館政策の設計自体から変えなければならない。ではどう変えればいいかと細かく議論していきました。

林保太(以下、林) 文化経済部会は2021年に立ち上がり、「文化と経済の好循環」をどのように生み出すのかという大きな問いのなかで、アートマーケットも含めた日本におけるアートの振興政策について考えてきました。コレクション形成、鑑賞教育や批評の充実など、好循環に必要なものは多数ありますが、基盤としての美術館とその活動こそが全体を好転させていくキーになる、ということが議論の末に浮かび上がってきました。そうした経緯を経て、アートのエコシステムを駆動するエンジンとして、美術館の在り方そのものを考え直そうということになったのです。

文化戦略官の林保太は、文化庁で現代美術の振興に長らく取り組んできた

保坂健二朗(以下、保坂) 日本には各地方に公立美術館がたくさんあるものの、そのプレゼンスはといえばいささか心許ない状況です。館の存在自体が知られていたとしても、その展覧会活動が国際的なネットワークのなかではあまり認知されていないという状況があります。ポテンシャルはあるはずなのですが、美術館の関係者すらその乖離にあまり気づいていません。そして、地方ががんばらなくては、相対的に存在するはずの国立の美術館がどうあるべきかも明確化していかないだろうとも思っています。

東京国立近代美術館の学芸員を経て、現在は滋賀県立美術館ディレクターを務める保坂健二朗

美術館組織の課題はどこに?

──報告書には組織改革への言及があります。日本の美術館組織の課題はどこにありますか。

片岡 私が館長を務める森美術館は、日本では特殊な例かもしれません。創設時の館長が英国人のデヴィッド・エリオットだったこともあり、当初から欧米型の組織が築かれ、デベロップメントや広報・マーケティングといった部署が独立しています。 ただし当時は専門職を担う人材が少なかったため、現場で育て上げていくことに注力しました。いまは運営企業の森ビルから部署異動で美術館部門に来る人も多いです。マーケティング、ファンドレイジングといった部門の人材は、必ずしも美術の専門家である必要はありません。むしろ民間企業などでそうした事業を経験してきた人のほうが大きいポテンシャルを持っている。学芸員以外の職種で美術館で働くことに、もっと関心を向けてもらえるといいのですが。

保坂 私はこれまでに、学芸員が多様すぎる業務、時には専門外の業務まで行う、いわゆる「雑芸員」問題を指摘してきました。状況はまだ改善されていません。美術館・博物館の活動は多様化すると同時に高度化しているので、専門的な知見を持つ人材がますます重要になっているにもかかわらずです。いっぽうで公的な文化施設で働きたいという人材はかなりいるので、登用するシステムづくりが必要です。私立・財団系の美術館では、柔軟に対応するケースが増えつつあります。ただし公立の直営館では採用時に学芸員資格を有していることが求められます。資格を求めないなら、設置者、県立美術館であれば県庁での一括採用となり、美術館側は採用に関われなくなる。こうした採用システム自体を変えていくよう働きかけなければなりません。日本の地方美術館・博物館の多くは、限られた職員数でどうにか業務を回しており、なんでもやる「雑芸員」的な職員がひとりという館が約半数を占めているのが現状なのです。

片岡 それは企業でいえば企画部と営業部と総務部をすべてひとりが担っているようなもの。仕事の進め方としてハイリスクで、組織としても脆弱な状態です。組織の課題としてもうひとつあるのは、日本ではメディア企業が美術館で企画展を開催・運営してきた長い歴史があります。美術館側は学芸的な機能を担当するものの、プロジェクトマネジメントやレジストレーション、輸送手配、借用交渉などは外部に委ねてきてしまった。ノウハウも人材も蓄積されてこなかったことが、大きな弱点となっています。いま香港、シンガポール、台湾、タイなどアジア各地域で美術館が増えており、それらは欧米型の分業型組織を構築しています。美術館行政は先行していたはずの日本だけが、旧型のシステムのまま、取り残される状況になっています。

関谷泰弘(以下、関谷) 日本の美術館は、組織のOSがアップデートされていないという印象はあります。当社でも美術館のマネジメント支援を手がけていますが、とくに公立館ではミッション、ビジョン、バリューからして、「県民の文化振興に資する」といった曖昧なものが多いです。そうなると組織としても、職員の目指すところも、どうしても曖昧になってしまう。専門性が磨かれていくという方向になかなか進みません。人材市場全体を眺めると、文化的な仕事に関わりたいという人はたくさんいます。そうした人材にどう入ってきてもらうかが今後のポイントですが、現状はまずポジションがない。ポジションがあったとしても給料が見合わない、採用期間が数年単位と短期であるといった事情も立ちはだかります。そのあたりを整備し、もうすこしビジネス側との交流を手厚くし、人材の流動性を高めていかなければいけないだろうと思います。

国際機関や国内外ミュージアムでの経験を持つ関谷泰弘。PwCコンサルティングの文化政策チームで文化芸術分野の課題解決に取り組む

片岡 アートのことを知らないと美術館では働けない、という思い込みを振り払わなければいけません。そもそも、いま美術館が直面している課題は、アートへの関心が薄い層にどうやって普及し広げていくかということです。展覧会タイトルひとつとっても、パッと見て「おもしろそう」と思ってもらえるような訴求力が必要で、決めるときには多様な視点が求められます。森美術館では、広報やマーケティング担当者もキュレーターと一緒に議論してタイトルを決めています。

関谷 日本の場合、専門性を大切にするあまり、内部の知識を持つ限られた人だけで展覧会の企画を進める傾向にあり、その結果、展示内容がマニアックなものになりがちだと感じています。海外の事情を聞くと、最低限、展覧会を開催できる予算を集めてから企画が動きだすということもあり、営業やファンドレイジングの担当者と企画者が一緒に、まずはスポンサーの獲得や資金調達の工夫を重ねます。それから一般の人にどれほど刺さるかを話し合う、という手順を踏むケースが多いです。「どう資金を集め、いかに観に来てもらうか」を徹底して議論するわけです。このような一般の視点を取り入れるというプロセスがないと、展覧会がどうしてもニッチなものになってしまいます。

財務モデルの改革は現実的なのか?──美術館の統廃合の可能性

──財務モデルの見直しについては、どう考えますか。

片岡 国立・公立美術館の収益モデルは、交付金や補助金などへの依存率が極めて高いのが現状です。対する私立の例として森美術館の内実をいえば、自前のファンドレイジングとチケット収入で50パーセントを賄っており、残りの50パーセントは人件費等の間接費に充当する森ビルからの予算です。全体予算が限られているというとき、そのなかでやりくりしようとするのか、足りない分を外から稼いでくるのか、組織のメンタリティの違いは出てくるでしょう。ただいずれにしても、美術館のミッション、自分たちの目指すところがまずあり、それを実現するために交付金や補助金を受け、足りない部分は工夫して入場料収入やファンドレイジングで賄っていくという思考プロセスであるべきだとは思います。

 また、いまは世界的に見て、プライベートファンド重視の流れになっています。ヨーロッパの美術館はパブリックファンド依存率が高かったのですが、各国で文化予算が激減しており、米国型のプライベートファンドに重きを置くスタイルへ転換をはかる例が増えています。日本も民間企業や個人からの支援を増強していくべきだと思いますが、その際に個人の寄附に関する税制が、寄附者に有利に働くよう設計されておらず、障害になっている面があります。ここは制度を見直す必要があるでしょう。

 さらに別の問題点を挙げますと、交付金・補助金を受け取っている場合、単年で稼ぎすぎると、翌年の予算が減らされるという不思議なしくみが厳然としてあります。この構造は明らかに成長の妨げとなり、改革していく必要があると思います。

 国公立美術館はこれまで、与えられた公的資金のなかでなんとかやってきているのが現状ですが、近年は変化を促す気運が出て来ています。例えば、財務省の「財政制度等審議会」が毎年建議を出していますが、2025年12月2日に出した「令和8年度予算の編成等に関する建議」では、文化関係として博物館、美術館の収入構造に触れていて、全体に公費依存が高く、国立美術館・博物館全体の7割以上で、館の収入に占める国からの運営費交付金の割合が5割を超えていることを指摘し、「持続可能な収益構造に転換するべき」と述べています。こうしたことがオープンに言われるようになってきているのです。美術館の財政的な問題は、対症療法で治すのは難しい段階です。外国人旅行者等に対する二重価格の導入など、様々な意見が出されていますが、問題はそう言われたからといって、公立美術館側が行動に移せるわけではないところです。法律、条例、規則などから変えないと、公の組織は結局何もできません。いろいろと検討した末に、条例や法律がネックとなり、身動きが取れなくなる例は多い。だから法律が時代に合っていないのだとしたら、法律を変えていかなければいけない。そうした変革の動きは、行政サイドでの検討を待っているのではなく、もっと美術界側から働きかけていく必要があるのだと思います。

保坂 地方の公立美術館の視点から言いますと、企業の寄附金における税額控除対象部分を増やせる「企業版ふるさと納税」を、うまく使っていけるかどうかがひとつの課題となりそうです。すでにうまく活用して、展覧会づくりに寄附金を回している例は出てきています。モデルケースが広まって、多くの企業が関心を持ってくれればいいのですが。また、美術館・博物館や歴史的建造物を「ユニークベニュー」として活用してみてはどうか、ともよく言われます。たしかにそうなのですが、いざ具体的に検討しようとすると、どんな形態なら企業宣伝や商行為にならず実行可能なのか、そもそも料金設定をどうするかなど、明確になっていないことが多い。また明確にしようとすると、美術館単独の問題ではなく、自治体全体の問題に波及してしまうのでどうしても及び腰になる。取り組みたいという気持ちはあれど、仕組みが条例レベルで整っておらず進めないという実態もあるのです。

関谷 突破口となる事例をつくることは重要です。そのためには、足かせとなっているルールや慣習を改善していく必要があるのですが、掲げたプランと現場のズレが生じていることがよくあるので悩ましいですね。行政の内部においても、文化部門と、実際の運用規則をつくる部門との意見や見解が異なっていることは多いものです。

保坂 さらにいえば、遅かれ早かれ、美術館を統廃合する必要があるという声も、自治体によっては上がってくるでしょう。ホールや体育館は実際に複数の自治体による統合の事例が出てきています。美術館はコレクションがあり、それが地域文化を反映しているので、統合などの歯止めになっているとも言えます。ただ、ここで考えておかなければならないのは、地域の文化とはいったいなんなのかということです。それは地元作家とその作品だけを指すのか、あるいは土地の作家でなくとも、地域を何かしら体現する要素があればいいのか。私がディレクターをしている滋賀県立美術館の場合、アール・ブリュットの作品群を収集していますが、アール・ブリュットと思える作品であれば、その作家が他府県だろうと他国であろうとかまいません。アール・ブリュットのコレクションがあるということが滋賀という地域の文化を反映するようになることを目指しているからです。自分たちの文化を体現するのはなんなのか、作家に限らない視点に立ち、ストーリーをうまくつくるのが大事です。

 コレクションを残しながら、運営面は統合なりをしていく話は、文化経済部会でも出ており、可能性としてはあり得ると思います。今後、少子化の問題を見据えると、美術館を支えてきた基盤も細っていくわけですから、統合もやむなしとなるかもしれません。

「業界の声」上げる必要性

──理想の美術館に向かって進む道筋は、どんなものを想定しますか。

片岡 美術館の役割について私は、2022年に更新されたICOM(国際博物館会議)の定義をよく参照します。そこには保存・修復・展示・普及という従来型の役割に加えて、社会的な役割も強調されています。ウェルビーイングやアクセシビリティ、気候変動などについての対応を、美術館・博物館業界全体で考えていかなければなりません。記録し収蔵し、次世代へ文化をつなぐことを考えれば、美術館が社会のなかで果たすべき役割は相当に大きいんじゃないかと思います。そこでいま、枠組みを再定義しましょうと言っているのです。

 美術館全体の音頭をどうとるかは、非常に難しい問題です。コロナ禍にあって演劇業界や映画業界は、まとまって緊急提言を出したりロビー活動をしていました。美術業界はそういう動きが少ない。国と話し合いながら相互理解を深める姿勢が、歴史的にあまりなかったようです。体制批判を役割と任ずるところもあるのでしかたのない面もありますが、コミュニケーションをとりながらお互い変わっていこうとする姿勢は必要です。そこはぜひ変えていきたいですね。様々なスケールの美術館を含め、私たちがどこへ向かおうとしているのか共有できるプラットフォームがあり、行政とも頻繁に話し合いの場を持つ、そういう環境をつくるべきです。

保坂 行政の担当者は異動でどんどん変わります。それで対話が進みづらい面はありますが、そうだとしてもここは美術業界の側が一丸となって「いまこうなっています」と明快に説明できるようにしておくといいのでは。こちら側の態度を更新していく必要があります。

 美術業界をまとめた声というのは、なかなかありません。日本は経済成長期においては他の産業から生み出された収益によって文化予算が支えられるという状況がありましたが、いまは限られたものが分配される状況になってきています。ですからなおさら声を上げていくことは重要です。「こうしてほしい」と言わないかぎり、何もしなくていいと見なされてしまいます。

片岡 防衛や福祉など国の優先事項があるなかで、美術の側が何も言わなければ「じゃあいいか」となってしまいます。個別には皆さん機会を捉えていろいろと発言されていますが、それを整理し、とりまとめて提出するという動きが必要ですね。

関谷 美術館が社会においてどれほど価値がありどんな意味を持つのか、改めて明確化するのも大事です。2019年にICOMとOECDが共同で「文化と地域発展」というレポートを出しています。ここでミュージアムが地域においてどういう役割を果たしていけるかの事例が紹介されているように、数字や客観性を持って、その役割を主張することが大事です。個々の美術館ではなかなかやり切れないので、やはりどこか取りまとめる組織なり場なりが必要です。

保坂 いまアートを取り巻く状況でひとつ気になるのは、「アートを使って何かをしたい」という文脈に偏りがちなことです。観光インバウンドに寄与できるのは望ましい面もありますが、このままだと何か歪んだかたちで大きくなってしまう危険があると感じます。

──報告書では、文化施設が地域の共有財として機能する「文化的コモンズ」についても言及されています。この視点から考えられる美術館の動きにはどんなものがありますか。

保坂 美術館や博物館は当然ながら地域と密接につながっています。地域との結びつきを強めていくほか、生き残る道はありません。美術館や博物館はコモンズである、つまり共有地として使ってもらえる場所なんだと認識してもらえるよう、こちらの活動のスタイルを変えていく必要があります。滋賀県立美術館でも地元の高齢者施設や福祉施設、特別支援学校やフリースクールなどと、対話鑑賞や社会的処方などいろんなプログラムに取り組んでいます。

 そういう活動をするためのスタッフには、美術史を学んだというだけではなく、もっと多様な人材が必要とされます。そのような人材をどう採用し育てていくかが、これから大きい課題となってきそうです。

片岡 芸術祭のことを考えてみると、運営組織は固定したものではなく、2~3年ごとにある一定の人員が必要となりますが、終われば解散です。即戦力になる人を育ててプールしておく必要があるはずで、育成プログラムを組み、派遣組織も整備しておいたほうがうまく回るでしょう。もっと広げて、学芸員以外のアート業界の人材バンクのような仕組みが求められているのではないでしょうか。

関谷 そういう意味において私たちは、専門スキルをボランティアで公共に提供する「プロボノ」のかたちで、文化領域に人材を派遣する取り組みを始めています。これを拡大して、社会に普及させていけたらと考えているところです。参加者はこれまで体験できないことができて、自分の能力も生かせるので、生き生きと仕事をしている人が多い印象です。本人の成長やスキルアップにもつながっていると思います。

片岡 行政についていえば、美術館はいまアクセシビリティや気候変動など、取り組むべき課題に向けて世界が動いているということを、国内であまり知ってもらえていないという課題があります。そういう情報に首長の方々が触れる機会が少ないのだと思います。首長が集まるところなどで、意識改革を働きかけていかなければいけません。

「理想の美術館像」とは何か

──最後に、それぞれが思い描く「理想の美術館像」を伺います。

片岡 美術館には、作品を収蔵して未来につなげていくという永続的な役割があるので、運営そのものが持続可能かどうかが重要です。文化政策には時間がかかります。即効性は薄いのですが、10年、20年と続ければ大きな効果を発揮します。ぜひ長期的なビジョンを持って、これからどういうシステムが必要なのか、文化全体に思いを馳せながら皆で考えていきたい。この報告書がそのために資するものとなればいいなと願っています。

保坂 「シビックプライド」というものが大事になってくると思います。美術館は地元と密着しているケースが多いものですし、そうでなければならない。地域の方々に誇らしいと思っていただける組織となるにはどうしたらいいか、と考えていく必要があります。ただし、地域の人たちのためだけにやるというだけではシビックプライドにならない。世界の中でのポジションを考えながら、小さくても、矜持を持って世界につながる意識を持つべきで、それが結果的に誇れる場所を生むことにつながると思いますし、美術館はそれができる稀有なプラットフォームなんです。そういう意識で学芸も事務も、スタッフ全員が考え直していくことによって、理想的な美術館ができていくでしょう。

 これからの美術館は、これまでの狭義の美術に閉じず、日本の視覚芸術文化の歴史を裏打ちする存在であってほしいと思います。同時に、地域の文化的な拠点として、そこに行けば日本、あるいはその地域の文化の歴史や特性を体感できたり、各地域における文化施設等の館種を超えた有機的な交流・連携を通じ、誰もが文化芸術に関わりを持ち、協働的活動によって新たな価値を生み出す「文化的コモンズ」へ発展していくことができるといいですね。日本の、あるいはその地域の文化振興のエンジンとなり、そこに暮らす人たちの生きる糧となるような場であってほしいと思います。

関谷 美術館にかぎらずミュージアムを社会化していくというのが大事です。社会化は社会に開くということ。令和6年度の文化庁の「文化に関する世論調査」などを見ても、過去1年に美術鑑賞した人の割合はわずか12.2パーセントです。世の中では、美術館にそれほど関心がない、あまり行かないという人がマジョリティです。そのマジョリティに「美術館は大事な存在だ」「美術館があることで社会がよくなるんだ」と思ってもらえる存在を目指さなければいけませんね。