挿絵画家として不動の地位を確立した雪岱。7章では、円熟期の挿絵だけでなく、肉筆も展示される。いうまでもなく、挿絵や装幀は人との協働から生まれるものだ。いっぽう肉筆は自分らしさを全面に押し出せるものだが、雪岱は定型的な表情や姿態によって女性を描いた。いっぽうで、《春告鳥》(1932)などに見られる、微かな情感は雪岱らしさと言えるだろう。また、鑑賞者が想像する楽しみのために設けられた「余白」も、雪岱の肉筆画の特徴だという。

雪岱を画業へと導いた恩人・泉鏡花は昭和14(1939)年に没する。雪岱はその没後の顕彰に力を注いだが、翌年には後を追うように自身もこの世を去った。ここでは最後の装丁本や、絶筆となった林房雄の長編小説『西郷隆盛』の挿絵原画を展示。晩年でも安定した画力は、誰もが認めるところだろう。

魅力ある作品を生み出すために、様々な人々との協働を続けながら、自らのスタイルも確立した小村雪岱。その仕事は没後85年を迎えたいまも、変わらぬ魅了を放ち続けている。
なお本展は千葉市美術館(2026年4月11日〜6月7日)、埼玉県立近代美術館(7月11日〜9月23日)へ巡回する。
大正から昭和初期にかけての都市文化や美意識を背景に成立した雪岱の仕事は、現代においても再検討に値する。本展は、その全体像を改めて提示することで、近代日本美術史における小村雪岱の位置づけを再考する機会を提供している。



















