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企画展「綾錦 ―近代西陣が認めた染織の美―」(根津美術館)レポート。染織図案集『綾錦』からたどる、根津嘉一郎の隠れた染織コレクション【3/4ページ】

小袖

 小袖類は、第2、5、7巻に約40件が掲載される。出版前の大正7(1918)年の展覧会で嘉一郎は6件を出品し、このうち2件が選ばれて7巻に収容された。当時の根津家の小袖コレクションは15件。4割が出品されたものの、掲載件数に物足りなさを感じたのか、その後、嘉一郎は、昭和9~10(1934~35)年に50件以上の小袖類を購入するなど、本格的な蒐集に乗り出したようだ。

《小袖 白綸子地石畳将棋模様》(江戸時代・17世紀、根津美術館)。モダンな意匠は左腰に余白を残す「寛文様式」。嘉一郎の購入時は綿入りの掻巻(かいまき)の状態だったが、2006年の修理で小袖に戻された
《腰巻 黒紅練緯地亀甲松竹梅折鶴模様》(江戸時代・18~19世紀、根津美術館)の精緻な亀甲紋はすべて手刺繍。その驚嘆の細かさはぜひ近くで

 ここでは、もうひとりの蒐集家・野村正治郎にも注目したい。古美術商を営み、早くから日本の染織の価値を見いだして質の高いコレクションを形成、同時にその魅力を国内外に伝えて、世界的にも知られる野村の旧蔵品は、戦後、紆余曲折を経てアメリカから買い戻され、現在は国立歴史民俗博物館にまとまって収蔵されている。

《振袖 綸子地御簾檜扇模様》(白と紅の2領)(江戸時代・19世紀 国立歴史民俗博物館)。大きなモティーフを大胆な構成に収めた婚礼衣装は野村正治郎旧蔵品。『綾錦』第2巻に掲載されている。もとは黒も揃う3領であったと考えられる

 見事な婚礼装束は本来、白地、紅地とともに黒地の3領揃いと思われるが、現存は2領。ただし、この着物を写したと考えらえる作品の図案が『綾錦』に掲載されており、往時をしのぶことができる。

『綾錦』の図案模写の版画。残る白地、紅地の2領と鳳凰の向きが異なっている。失われた黒地を参考に仕立てたもの(京都国立博館蔵)の模写と考えられている

編集部