尾道に佇む小さな宿。街に優しいあかりを灯す「LOG」の魅力とは【3/4ページ】

 全6室の客室は、最上階である3階に設けられている。ビジョイの「be gentle(優しくあれ)」という言葉にならい、これらの客室の床、壁、天井には和紙が張られ、繭に優しく包み込まれるようなイメージをつくりあげている。和紙を使った内装を担当したのは和紙職人のハタノワタル。2007年に京もの認定工芸誌に認定されたハタノは、京都・綾部の黒谷和紙を用いた作品も制作している。和紙を通して窓から届く光は柔らかく、静かで平穏な時間が空間内に流れるようだ。

 客室は3つのタイプに分かれており、それぞれ内装が少しずつ異なる。「1ベットルーム」と言われる客室は館内に3部屋あり、土間、浴室空間、寝室空間、窓辺の縁側空間に文節され、部屋の中央にベットスペースが設けられている。そのほか、ベットスペースを障子で区切ることのできる「2ベットルーム」、ハタノとともに「ちぎり貼り」で仕上げられた「4ベッドルーム」が備わっており、部屋での過ごし方や人数によって部屋のタイプを選ぶことが可能だ。なお全室に縁側が設けられているのも特徴である。

客室(「1ベットルーム」)の様子
客室(「1ベットルーム」)の様子。壁面にかかる平面作品は和紙職人・ハタノワタル作、台に置かれた立体作品は器作家・広瀬陽作。

 同じく3階には、宿泊者限定で利用できるライブラリーがある。ここはスタジオ·ムンバイにある、ビジョイの書斎をイメージした空間だ。ムイネル・ケイト・ディニーンと繰り返し行われた検証の末、窓の外に見える庭の木々に近いグリーンが壁の色として選ばれている。また客室とライブラリーの窓にも注目したい。窓がすりガラスになっているのは、宿泊者のみが入れる3階だけとなっているが、窓の外の景色を、まるでクロード・モネの印象画のようにも楽しんでほしい、という意図が込められている。

ライブラリーの様子

 LOGの「G(Garden)」を表す庭は、誰でも自由に入ることができる。四季折々の植物だけでなく、電車の音や、坂をのぼる人々の話し声など、尾道の日常の気配が感じられる空間だ。