まず、52年の第7回行動展で行動美術賞を受賞した《むれ(2)》と、56年のシェル新人賞展でシェル美術賞(三等)を受賞した《生誕》が展覧される。《生誕》は、江見の娘である、作家・フランス文学研究者の荻野アンナがお腹の中にいるときに制作されたものだ。


58年に制作された《断片》は、幾何学的抽象な作風である。この頃日本ではアンフォルメル旋風真っ只中だったが、江見はそんな流行りのなかでも明確なフォルムを描いた。

そして会場には、今回の目玉とも言える62年の第31回ヴェネチア・ビエンナーレへの出展作8点が紹介される。これらは江見のアトリエにまとまったかたちで残されており、2003年度に同館へ寄贈されたものだ。発見時のものにクリーニングを施し、当時の色彩に近いかたちで公開されている。

58年の作品が幾何学的抽象の作風だったのに対し、62年のこれらの作品には、そうした幾何学的モチーフはまったく見られない。加えて、その制作手法も非常に特徴的である。江見は自身の旧作を新作の素材として再利用したのである。旧作を自宅の庭にある池に浸して絵具を剥がし、それをふるいにかけて新しい絵具と混ぜ合わせる。そうしてできた絵具を新しいキャンバスに盛りつけるという斬新な手法を用いた。

当時アンフォルメルでは作品に砂などを混ぜるといった行為を実践する者もいたが、江見は油絵具とキャンバスという素材にこだわったうえで、自身の作品に偶然性を取り入れようとしたのかもしれない。
本展では興味深い小作品も紹介されている。59年に制作された《作品(クリマ)》は、58年までに制作された幾何学的抽象の作品を火で炙ったものだ。作品の表面に煤がついていることから、火の上に作品を持ち上げたことが予想できる。62年より前に、すでに自然の摂理による偶然性を取り入れる制作スタイルが垣間見える。




















