• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 被災した「能登瓦」の未来──「瓦バンクプロジェクト」が描く復…

被災した「能登瓦」の未来──「瓦バンクプロジェクト」が描く復興のかたち【4/5ページ】

瓦を通じて被災地の現状や文化背景を伝える企画展も

 現在、珠洲市には地域住民のほか、復興に従事する解体業者なども出入りしているようだ。そうした人々の交流の場でもある現地の銭湯「あみだ湯」では、瓦を通じて被災地の現状や文化背景を伝える企画展「アウトサイド」(~12月16日)が開催されている。

あみだ湯 外観
あみだ湯 内観
あみだ湯 内観

 同展の企画を担当するのは、元国立工芸館特定研究員の石川嵩紘だ。展覧会名の「アウトサイド」には、小松市を拠点とする瓦バンクと、金沢市に住む石川がともに被災者ではなく、あくまで「外部」の立場から震災と向き合っていること、珠洲市が石川県の北端に位置すること、そして瓦という素材が屋外で用いられ、人々の暮らしや地域の景観をかたちづくってきたこと、という複数のニュアンスが込められている。

 出展作家には、被災地を訪れ、それぞれの立場から能登と関わってきた山本基、七尾旅人、仮( )-かりかっこ-、宮崎竜成、大和楓、池田杏莉といった6名の作家が名を連ねる。作家たちは能登瓦や地域の文化をリサーチし、ジャーナリスティックな視点を踏まえながら、銭湯の利用者に“能登地方で築かれてきた文化や産業の歴史を発見してもらう”ことに重きを置いた表現を展開している。

 企画・キュレーションを担当した石川は次のように語る。「被災建物の公費解体は、今年11月に目処がつく見込みだと石川県は発表しています。解体作業が終わった後には何が残るのでしょうか? “アウトサイド”とタイトルにあるように、我々は当事者になり得ません。残念ながら、東日本大震災のときに比べ、能登半島地震に対する人々の関心の薄さも感じられます。それでも、アウトサイドな立場であっても、アートと地域を接続させながら、能登にあった文化を瓦を通じて伝えられたらと考えています」。

展示風景より、山本基《「モノクローム」 - 記憶への回廊》(2025)。「奥能登国際芸術祭」で恒久展示《記憶への回廊》を発表してきた山本が、その流れを受け、本展では能登瓦を支持体とした新作を公開している
展示風景より、七尾旅人《呼び声》(2025)
シンガーソングライターの七尾は、倒壊した建物から回収された能登瓦に、新作の詩「呼び声」を釉薬で記し、焼成した作品を発表している。静かでありながら、生々しい七尾の想いが伝わってくる
展示風景より、大和楓《ぽよぽよ新聞 瓦版 2025年10月号、11月号、12月号(原稿)》(2025)。能登瓦を題材に取材した内容を新聞形式でまとめている大和は、地域の産業史を丹念にひもときながら、時代考証的な視点を通して現代社会の構造まで浮かび上がらせている
展示風景より、池田杏莉《それぞれのかたりて / あしたも おはよう》(2025)。震災後、池田は自身も輪島を中心にボランティアに参加し、被災者との対話を重ねてきた。本作では、能登瓦の破片と、和紙にエッチングで描いたドローイングをひとつに組み合わせ、新たな立体作品として再構築している。和紙の褪色とともにドローイングが徐々に現れてくるという、時間の経過が作品のなかに組み込まれている点も特徴だ
展示風景より、仮( )-かりかっこ-《仮(切籠)》(2025)。「あみだ湯」を経営する新谷健太と、ゲストハウスを運営する楓大海によるアーティストコレクティブは、様々な集落から集めた部材を組み合わせ、祭りで使われる「キリコ」を制作した。現在、あみだ湯では被災家屋の木材を燃料として用い、街を弔いながら癒しを提供している
展示風景より、宮崎竜成《物質と記憶》(2025) 写真提供=作家
現地で滞在制作中の宮崎は、被災し再利用ができなくなった瓦に日記と絵を描き、その過程を映像で記録。描き終えた瓦は、ハンマーで粉砕し、顔料として用いてキャンバスに能登の家並みを描いている

編集部