アーツ前橋、新体制前後の経緯
ところで、アーツ前橋では、2020年以降、借用作品の紛失(収蔵を視野に2作家から借用したうち6作品を紛失)と、作家に対する契約不履行という2つの不祥事が起き、いずれも2023年3月、前橋市が和解金を支払うかたちで決着した。また、当該作家の個展時に、前館長と担当学芸員から臨時職員に対するハラスメントがあったことが前橋市で認定され、市から臨時職員への謝罪があった。これら三つの事案は、今後も美術界全体の教訓にしなければならないだろう。属性的な問題があっても、登場人物が変わって、またどこかで起こり得ることでもあるからだ。
作品紛失事案を受けて、2021年に「アーツ前橋あり方検討委員会」が計5回行われ、同年12月に提言書を市に提出するまで筆者は取材に通ったが、行政・美術館を問わず市・県内外の多数の人々がどのように動き、働いたかも目にした。
2023年5月に南條史生特別館長、出原均館長の新体制後も、再発防止と信頼回復が進められてきた。出原館長は「これまでのアーツ前橋の良いところは受け継ぎながら、公共の美術館として改善しなければならない点には引き続き地道に取り組んでいきたい」と語る。収蔵品管理のなかでは、アーツ前橋公式ウェブサイトでコレクション検索を設置し、明るみにしたこともそのひとつ。開館後の作品登録は終了し、開館前の収蔵作品を登録すれば全作品の掲載となる。なお、作品収蔵のための購入予算は、開館した2013年〜2020年までは毎年1000万円が確保されていたが、作品紛失事案が決着するまでの2021(令和3)年度〜2023(令和4)年度は計上されず、うち2022(令和4)、2023(令和5)年度は寄贈のみ。2024(令和6)、今年度2025(令和7)年度はまだまだ十分とは言えないが、200万円となった。
冒頭の挨拶文には、「新収蔵作品がこれまでの作品と同様、みなさんにとって意義のある共有財産となることを願っています」と綴られている。自分への戒めも含め、作品たちが私たち人間のことを見ているような思いがした。



















