第4章「ケア」は最も印象深い章だ。写真家の田村尚子は、思想家のフェリックス・ガタリが終生関わったことでも知られるフランスのラ・ボルド精神病院を2005年から不定期に撮影している。その患者やスタッフの日常を撮影した写真や映像作品を紹介。開かれたケアが、患者同士の食事や対話の風景から想像される。
また、2017年に前橋市に滞在したアンナ・ヴィットは、介護施設で働く外国人の方々に取材した中から言葉や動きを拾い、様々な世代のダンサーとダンスを制作した。今回は、まちなかで踊る様子を撮影した映像作品を上映。移民や高齢者など現在ますます重要なテーマだ。

「第5章 ものへのまなざし」では、事物への凝視を感じる石内都らの作品を紹介。仮想世界が現実世界に影響を及ぼし、真偽の判断も困難な世の中で、美術は事物をしっかりとらえる力の鍛錬にもなる。三宅砂織は、ドイツのポツダムにまつわるある個人の追想を起点に、「個」と「時代精神」の層から「絵画的な像」を抽出しようと、ポツダムの公園を撮影し、モノクロ反転で、なおかつスローモーションで撮影。フォトグラムの手法を初めて映像に適用させた作品となった。

また、ワプケ・フェーンストラの世界各国の農家の人々の手を撮影したシリーズには、2016年に前橋に滞在し、市内農家にリサーチした作品も含まれる。今春開催した展覧会「はじまりの感覚」で企画・出展した三輪途道(みわ みちよ)の彫刻には「手ざわりの眼」が感じられる。


最後の「コレクションを超えて」では、白井ゆみ枝、津野青嵐のインスタレーションを一室で展開。白井ゆみ枝は、宮沢賢治作品に触発されて制作した舞台演出のための作品をはじめ、布や糸、ビーズなど刺繍の技法を活かした作品を展示。一方、津野青嵐は、臥床生活を送る祖母のために、食卓を囲むという日常に衣服というツールを介入させたインスタレーションを設置した。実際の食卓風景を記録した映像作品と併せて見ると、祖母の喜びも伝わる。病院や福祉施設での勤務経験もある津野は、装うことを通じて関係性も変化する作品を制作しており、「第4章 ケア」にも通じる。


全体を通して、かつて前橋で滞在制作したアーティストも多く、これまでの美術館活動が垣間見える展覧会だ。



















