第3部「流行と大衆の時代」では、関東大震災以降の東京を中心とした都市文化と消費社会のなかで花開いた新たなビジュアル表現を紹介。「尖端都市のイマジュリィ」では、復興を背景に形成されたモダニズム的感性や、情報誌・全集ブームなど、大衆教養と商業文化の交差点が描き出される。

「大衆文化のイマジュリィ」では、音楽・映画・レビューといった都市の娯楽を彩った視覚資料が並ぶ。ジャズやオペラ、レビューのパンフレット、楽譜や映画ポスターを通じて、大正末から昭和初期にかけての洗練された都市型大衆文化の姿が立ち上がってくる。

本展を語るうえで欠かせないのが、「印刷技術」の存在感である。明治後半から昭和初期にかけて、浮世絵の伝統を引く木版多色刷やリトグラフといった技法が依然として出版物に用いられていた。中島上席学芸員は「現在では美術館で鑑賞されるようなリトグラフも、当時は雑誌や書籍に使われていた」と語る。
大量印刷技術が普及する以前、印刷物は人々にとってほぼ唯一の視覚メディアであり、挿絵や装幀は繰り返し眺められる「儚い宝物」として記憶に刻まれていた。本展は、急速にデジタル化が進む現代において、「紙の文化」の豊かさを再発見する貴重な機会でもある。


展示資料の多くは現在でも古書店などで入手可能であり、中島は「ビジュアルから入り、文章の世界にもぜひ触れてほしい」と語る。視覚と物語、紙とインクの出会いが育んだ「青春のイマジュリィ」は、過去をたどるだけでなく、未来の表現を考える契機にもなり得るだろう。




















