セクション7「たくさんの ひとつの 森」では、藤本が2024年に設計コンペで選ばれ、現在基本設計を進めている《仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設》が中心に紹介される。これはコンサートホールと震災メモリアルを兼ね備えた複合文化施設であり、2031年の東日本大震災20周年に向けて竣工予定となっている。

展示の中心は、巨大な屋根スラブ構造を15分の1スケールで再現した吊り模型。会場の天井から吊られたこの模型は、プレート状の構造体が多数組み合わされて建築を構成する、藤本ならではの「たくさんの/ひとつの響き」というテーマを視覚化している。

後半の展覧会を担当した近藤健一シニア・キュレーターは、この建築は「ばらばらであり ひとつであり」という藤本の根幹にある思想の延長線上にあると話す。セクション内には、この思想に基づいて設計されたほかのプロジェクトの模型や、藤本のインタビュー映像、さらに70点にも及ぶ主要プロジェクトのコンセプトドローイングも展示されており、彼の建築的思考が多層的に浮かび上がってくる。

展覧会の締めくくりとなるセクション8では、建築が未来に対して何ができるのかという問いに真正面から向き合う、藤本とデータサイエンティストの宮田裕章(慶應義塾大学教授)による未来都市構想《共鳴都市2025》が紹介されている。
展示室に広がるのは、大小様々な球体状の構造体が複雑に組み合わさった模型と映像によるヴィジュアルプレゼンテーション。この未来都市は、直径500メートル以内に、住宅、学校、オフィスなど都市生活に必要なすべてが集約されており、最大で5万人が生活することを想定している。

都市の構造は、従来の水平・垂直移動にとどまらず、「斜め移動」も可能とする三次元的な構成となっている。人々は球体の集合体のなかをモバイルデバイスを用いて自由に移動し、それぞれのコミュニティは自律的でありながらも緩やかにつながっている。
この構想は、絶対的な中心を持たない「森」のように、多方向に開かれた共鳴的な都市の在り方を提案するものであり、近藤キュレーターは「現代美術館にとって、こうした想像力を最大限に広げるような大胆な構想こそ、非常に意義深いものだ」と語る。
本展は、藤本壮介という建築家の過去・現在・未来を、身体感覚を通じてたどることのできる貴重な機会であると同時に、建築が社会や人間に対して果たす役割を根源的に問い直す場でもある。「つながること」や「共に生きること」「未来を想像すること」など、藤本建築の本質が、力強く、そしてやさしく伝わってくる。

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