恵比寿映像祭2025「Docs ―これはイメージです―」(東京都写真美術館ほか)開幕レポート【4/4ページ】

 また、東京都写真美術館の総合開館30周年を記念した企画の第一弾でもある同映像祭。その開催に際し、同館事業企画課長の丹羽晴美の言葉をお届けする。

──総合開館から30周年。国内はもちろん世界的に見ても希少な「写真・映像」を専門とする美術館として、この年月を振り返ってみていかがでしょうか。

丹羽 19世紀に「写真」が発明されたとき、そのいっぽうで「絵画の死」という言葉が生まれました。しかし絵画はいまでも存在しますし、写真は記録すること以上の表現が求められるようになりました。

 つまり、写真や映像が我々の知覚にとってどのようなものであるのかをしっかりと見極め、考えていくことが大切であると考えていますし、そのようなことを踏まえて活動を行ってきました。スマートフォンの普及によって誰もが写真や映像を撮ることが可能になった現代だからこそ、より基本的なことを伝えていく必要があると感じています。

──そのような考えから昨今積極的に推進している活動はありますか?

 オープンワークショップとして、「暗室での現像体験」を今年初めて同館のスタジオで実施しました(1月19日)。日頃大学などで教鞭をとっていると、フィルムカメラを知らない世代も増えてきていると実感します。こういったワークショップやコレクション作品の紹介などを通じて、写真や映像の魅力、可能性、リスクを伝える機会を増やしていきたいですね。

 また、今年は東京でデフリンピックも開催されます。アクセシビリティの強化を図り、ミュージアムが誰でも開かれる場所になっていくよう引き続き務めたいと考えています。

──逆に、東京都写真美術館が現在抱えている課題としてどのようなものが挙げられるでしょうか。

 どこの美術館もそうですが、運営のみならず、収蔵作品を増やしていくために専門家との連携をより密にしていく必要があります。また、写真という分野は美術品のなかでもっとも保存が難しいと言われています。弊館には保存科学研究室がありますから、そこで最新の情報をキャッチしながらこれらの課題には日々向きあっているんですね。

 あわせて、映像分野でも同じような仕組みを必要としています。昨今はメディア・アートの収蔵品も増えましたが、作品ごとに仕様が異なります。弊館では10年ほど前から、作家とのやりとりをもとにしたインストラクション(指示書)を作成するようにしており、ようやく充足してまいりました。10年以上前の収蔵品をどうしていくかという課題は残るものの、そういったメディア・アート作品も皆さんにお見せできる機会がつくれたらと考えています。

 同映像祭では、手話通訳付きトークや鑑賞サポートをより充実させ、多様な背景を持つ来場者一人ひとりが文化や表現に出会う環境が準備されている。ほかにも、地域連携プログラムも充実しており、恵比寿周辺の文化施設では様々な展覧会やイベントに加え、映像祭をより楽しむためのシールラリーも実施中だ。ぜひ1日ほど時間をつくって、映像祭をじっくり楽しんでみてほしい。

編集部

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