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混迷の時代における芸術の役割とは? 第35回世界文化賞受賞者ら集う【2/2ページ】

「芸術は暴力に対する勝者になる」

 今回の受賞者記者会見には世界文化賞の国際顧問らも出席。そのうちのひとりであるヒラリー・ロダム・クリントンは、「この賞が創設された35年前の状況は、今日とはかなり違うものだ」としつつ、「しかし芸術の持つ力はさらに重要さを増している。政治的あるいは経済的な課題などがある変化が早い時代にあっても、芸術の力や役割は我々を光に導くものだと信じている。今後、この賞の重要性はさらに高まるだろう」と世界文化賞の意義を強調した。

合同記者より、右から二人目がヒラリー・ロダム・クリントン

 世界を戦争や環境危機、経済格差の拡大などが取り巻く「混迷の時代」において、芸術家たちは何を思うのか? ソフィ・カルは一見政治的なコンセプトを持つアーティストではないが、自身の活動を次のように語っている。「私が1979年にアーティストとして仕事を始める前、私は政治活動をしていた。アーティストになったときも活動家的なアーティストになりたいと思っていたがうまくいかなかった。私はもしかしたらほかの受賞者と比べたら政治色は少ないかもしれないが、奥深くではそうした(政治的な)懸念が私を突き動かしている。私の活動は女性としての取り組みであり、それ自体が政治的な側面を帯びている」。

ソフィ・カル

 もっとも強い印象を残したのは、すべての作品において、暴力の被害者をモチーフにするドリス・サルセドの言葉だ。サルセドは現代を「我々は共感する力をなくしてきており、人間性が失われていく時代」としつつ、次のように語りかけた。「芸術家として、悲惨な体験をもっと高みに上げ、根本的な人間の感覚を取り戻せればと思う。悲惨な状況に抵抗する人々はつねにいる。それを考えると、人生や生命は素晴らしいものだ。だからこそ、それを無にする暴力を深く憎む。芸術は暴力に対する勝者になる。芸術は命を救ったり、傷を癒すことはできないが、社会を変えることはできると思っている」。

ドリス・サルセド