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世界文化賞の受賞会見が開催。彫刻部門のオラファー・エリアソン「芸術は言語であり空間を提供するもの。そして空間は人と出会う場だ」

1988年に設立され、世界の優れた芸術家に贈られる「高松宮殿下記念世界文化賞」。その第34回の受賞者が記者会見を行った。

受賞者会見より、左からオラファー・エリアソン(彫刻部門)、ヴィヤ・セルミンス(絵画部門)、ディエベド・フランシス・ケレ(建築部門)、ロバート・ウィルソン(演劇・映像部門)

 1988年に設立され、世界の優れた芸術家に贈られる「高松宮殿下記念世界文化賞」。その第34回の受賞者会見が行われた。

 同賞は、1887年に設立された公益財団法人 日本美術協会の設立100年を記念し、前総裁・高松宮殿下の「世界の文化芸術の普及向上に広く寄与したい」という遺志を継いで創設されたもの。毎年、世界の芸術家を対象に絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の5部門において受賞者が選ばれ、それぞれに感謝状、メダル、賞金1500万円が贈られる。

 今年の受賞者は、ヴィヤ・セルミンス(絵画部門)、オラファー・エリアソン(彫刻部門)、ディエベド・フランシス・ケレ(建築部門)、ウィントン・マルサリス(音楽部門)、ロバート・ウィルソン(演劇・映像部門)の5名。加えて、今年で第26回となる若手芸術家奨励制度の対象団体も同時に発表され、アメリカのルーラル・スタジオとハーレム芸術学校の2団体が選ばれた。

受賞者会見より、左からヴィヤ・セルミンス(絵画部門)、オラファー・エリアソン(彫刻部門)、ディエベド・フランシス・ケレ(建築部門)

 なお、会見には主催者の日枝久日本美術協会会長と、国際顧問のヒラリー・クリントン、クリストファー・パッテン、ランベルト・ディーニー、クラウス=ディーター・レーマン、ジャン=ピエール・ラファマンの代理であるセルジュ・ドゥガレ、そして名誉顧問のディヴィッド・ロックフェラー・ジュニアが参加した。

 ヴィヤ・セルミンスは1938年ラトビア生まれ。ソ連軍の侵攻を受け、5歳のときに一家で母国を離れドイツの難民キャンプで過ごし、48年にはアメリカに移住。60年代に戦闘機や銃、暴動など戦争や対立をモチーフとした油彩画を発表するいっぽう、60年代後半から70年代は油彩を離れ、鉛筆やテレビ、ランプ、消しゴムなどの日常の品々を単品で描いた静物画・立体を制作する。

ヴィヤ・セルミンス 6パーツからなる絵画(詳細) 1986-87/2012-16 A Painting in Six Parts (detail), 1986-87 / 2012-16 ©Vija Celmins Photo: Courtesy Matthew Marks Gallery, Collection Glenstone Museum

 日本では、2003年に森美術館の開館記念展「ハピネス」に出展し、14年には横浜トリエンナーレでも紹介された。また、今年5月にはドイツのハンブルク美術館で1997年の世界文化賞受賞者であるゲルハルト・リヒターとの2人展を開催し、話題を集めた。

 セルミンスは受賞において「私はこれまで日本人の友人に支えられてきた。20年前の『ハピネス』展以来の来日となって、とても嬉しい気持ちだ」と述べた。

 彫刻部門を受賞したオラファー・エリアソンはデンマーク出身でベルリンとコペンハーゲンを拠点に活動しており、色、光、霧など自然界の要素を取り込み、人の知覚や認識に揺さぶりをかける作品で広く知られている。

オラファー・エリアソン ウェザー・プロジェクト 2003 テート・モダン、ロンドン Monofrequency lights, projection foil, haze machines, mirror foil, aluminium, scaffolding 26.7 x 22.3 x 155.44m Tate Modern, London, 2003 Photo: Jens Ziehe Courtesy of the artist; neugerriem

 2003年、ロンドンのテート・モダンで発表した巨大な人工的太陽を幻出させる《ウェザー・プロジェクト》は、エリアソンが国際的な作家になるきっかけをつくった。近年は、未電化地域に提供を続けるなど、社会に変革を促すプロジェクト「リトルサン」(2012)や、グリーンランドから運んだ氷塊を都市の中に展示し、地球規模の気候変動に対して人々に気づきと行動を喚起させる《アイス・ウォッチ》(2014)などにも取り組んでいる。

ソーラーライト《リトルサン》(オリジナル)を手にするエチオピアの少女 Little girl playing with Little Sun (Original) in Ethiopia Photo: Merklit Mersha Courtesy of Olafur Eliasson Studio

 オラファーは2020年に東京都現代美術館で大規模個展「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」を開催し、同年には公益財団法人大林財団による第11回の「大林賞」も受賞。また、今年11月に港区・麻布台にオープンする麻布台ヒルズの地下に開設される「麻布台ヒルズギャラリー」の開館記念展として「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」も予定されている。

 オラファーは受賞後の記者懇談会で、環境危機に対する芸術の役割について、記者の質問に次のように答えた。「芸術は言語であり空間を提供するものであり、空間は人と人が出会える場だ。それは、違なる意見を言う人と同じ空間にいることでもあるし、相手の言葉に耳をかたむけることになる。それが理解の一助になればいい」。

オラファー・エリアソン、記者懇談会にて

 建築部門を受賞したのは、ブルキナファソ出身で現在はドイツを拠点に活動しているディエベド・フランシス・ケレ。2022年にアフリカ出身で初めてプリツカー建築賞を受賞したケレは、故国ブルキナファソを中心にアフリカ各地で、地元の材料や伝統的な知恵をいかしながら、サステナブルな建築を数多く手掛けてきており、代表作「ガンド小学校」(2001)のような社会の課題解決を目指すプロジェクトで国際的に評価されている。

ディエベド・フランシス・ケレ、ベルリンのケレ建築事務所にて 2023年5月 At Kéré Architecture, Berlin, May 2023 ©The Japan Art Association / The Sankei Shimbun

 ケレは受賞に際して「このような著名な人々と並べることを嬉しく思う。日本には素晴らしい建築技術もあり、たくさんの建築家もおり、学ぶべきことがとても多い。受賞によって胸を張って日本の人々と向き合える」と話した。

「ベナン国会議事堂」外観の完成予想図 Rendering façade of Benin National Assembly Courtesy of Kéré Architecture

 そのほか、音楽部門の受賞者であるウィントン・マルサリスは、グラミー賞でジャズ部門とクラシック部門を同時受賞し、「黒人のジャズ」「白人のクラシック」という固定観念を覆し、音楽界全体に大きな影響を与えたと称されるトランペット奏者。また、演劇・映像部門の受賞者であるロバート・ウィルソンは、舞踊、絵画、照明、彫刻、音楽、脚本と、様々な芸術を融合し、独自の演劇世界を創造する演出家、舞台美術家、デザイナーだ。

ウィントン・マルサリス ジュリアード音楽院にて 2023年5月 At The Juilliard School, May 2023 ©The Japan Art Association / The Sankei Shimbun
ロバート・ウィルソン、「ウォーターミル・センター」のコレクション・アーカイブにて ニューヨーク州ロングアイランド 2023年5月 At the collection archive of The Watermill Center
Long Island, New York, NY, May 2023 ©The Japan Art Association / The Sankei Shimbun

 若手芸術家奨励制度の対象団体に選ばれたルーラル・スタジオは、アメリカ・アラバマ州の貧しい農村地区で、建築を学ぶ学生が住宅、公共建築などを建設し、地域の活性化に貢献していることで選出。ハーレム芸術学校は、ニューヨークのハーレム中心部で2〜18歳の生徒に音楽、ダンス、演劇、ヴィジュアル・アート、デザインを教える団体だ。

ルーラル・スタジオによるニューバーン図書館 2013年 アラバマ州ニューバーン 2023年4月 Newbern Library, 2013 Newbern, Alabama, April 2023 ©The Japan Art Association / The Sankei Shimbun
ハーレム芸術学院でデジタルイラストレーションを学ぶ生徒たち Pupils learning digital illustration ©The Japan Art Association / The Sankei Shimbun

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