世界トップクラスのコレクター、フランソワ・ピノーとは
世界でもっとも重要なアートコレクターのひとりフランソワ・ピノー。そのアートコレクションの一部が、ソウルのアートスペース「SONGEUN(ソンウン)」で公開されている。
ピノーは、サンローランなどを擁するラグジュアリー・コングロマリット「ケリング・グループ」の会長兼CEOでありながら、アート界でその名を知らない者はいないほど著名なコレクターだ。そのアートコレクション「ピノー・コレクション」は、同氏が半世紀あまりをかけて収集してきた屈指の現代美術作品で構成されており、世界のアーティスト約350人の作品1万点以上からなる。
そのコレクションを広く公開する場として用意された、イタリア・ヴェネチアのパラッツォ・グラッシとプンタ・デラ・ドガーナは広く知られる存在だろう。またピノーは2021年にはパリに現代美術館「ブルス・ド・コメルス」もオープンさせており、同館はすでにパリの新たな名所だ。旧証券取引所を安藤忠雄がリノベーションしたブルス・ド・コメルスは、絵画、彫刻、写真、インスタレーション、ヴィデオ、音声作品、パフォーマンスなどのあらゆる芸術表現をカバーしており、歴史的評価が定まった作品のみならず、新進アーティストの作品も広く受け入れていることに大きな特徴がある。
このブルス・ド・コメルスのキュレーターであり、フランソワ=アンリ・ピノーのアーティスティック・アドバイザーを務めるキャロリーヌ・ブルジョワがキュレーションする展覧会が、ソウル江南区にあるヘルツォーグ&ド・ムーロンが建築を設計したアートスペース「SONGEUN(ソンウン)」で開催中の「Portrait of a Collection: Selected Works from the Pinault Collection」だ。
パリから60点以上が集結
ブルジョワは2004年から08年まで、パリのイル・ド・フランス広場のアーティスティック・ディレクターを務め、グループ展と個展のキュレーションを担当。また、ドミニク・ゴンザレス゠フォルステル、ピエール・ユイグとともに、公共空間における大規模な芸術的コラボレーションも企画した経歴を持つ人物だ。
本展は、2021年にブルス・ド・コメルスでピノー・コレクションが開催した最初の展覧会「Overture」にインスピレーションを得ているという。
展示作家には、ピーター・ドイグ、ミリアム・カーン、フェリックス・ゴンザレス=トレス、マルレーネ・デュマス、デイヴィッド・ハモンズ、ルドルフ・スティンゲル、リュック・タイマンス、リネッテ・イアドム゠ボアキエなどが名を連ねており、ヴィデオ、インスタレーション、彫刻、ドローイング、絵画など、多様なメディアを通じて同コレクションが包括的に紹介されている。
展示は地下から3階までの4フロアをすべて使用。エントランスに佇むヤン・ヴォーの《Untitled》(2020)は、15世紀半ばのクルミ材でつくられた聖母子像、青銅器時代の斧頭を20世紀の展示ケースに収めたもの。様々な時代の痕跡とともに、アーティスト自身による改変も含まれており、文化的に象徴的な作品に対して、作家が所有者としての権力と権利を行使する流用というジェスチャーが示されている。
アフリカ系アメリカ人アーティストとして重要な存在であるデイヴィッド・ハモンズ。展示の中心にある《Rubber Dread》(1989)は、空気を抜いた自転車のタイヤチューブでつくられた編み込みのヘッドドレスのような様相を呈している。アフリカ系アメリカ人の歴史とアイデンティティ、アメリカらしさという概念、そしていまなお続く奴隷制と植民地主義の残滓に疑問を投げかけるものだ。