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美的感覚に訴えかけるコンセプチュアル・アート。ヤン・ヴォー インタビュー

ベトナム生まれデンマーク出身、現在はベルリンを拠点に活動しているアーティスト、ヤン・ヴォー。個人史を通して植民地時代の歴史や権力の悪用、グローバル経済システムの歪さなどの問題を浮かび上がらせる作品で知られる。東京のタケニナガワで個展を開催し、また豊田市美術館のグループ展「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」にも参加しているヴォーに、2020年に国立国際美術館でのヴォーの個展を企画担当した学芸員・植松由佳がインタビューを行った。

聞き手=植松由佳(国立国際美術館学芸課長) 記事構成=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

ヤン・ヴォー

個人史から見た植民地支配と権力システム

──まず、タケニナガワでの展覧会についてお聞きします。展示作品では、これまでにも作品として発表されたアメリカのホラー映画『エクソシスト』からの引用とカラヴァッジョなどルネサンス期の絵画を組み合わせていますが、それについてご説明いただけますか?

 このプロジェクトは4〜5年前、デンマークにあるリトグラフを専門とする印刷工房から依頼を受けて始まりました。リトグラフは石、油、水を使った18世紀の技術で、絵画と近い表現が生まれます。ルネサンスやバロック期の絵画を切り抜き、そのイメージのうえに、母の好きな映画『エクソシスト』(1973)で悪魔に取り憑かれた子供リーガンの台詞から引用した45の言葉を父が手書きで加えました。

展示風景より
©︎ Danh Vo, courtesy of Take Ninagawa, Tokyo. Photo by Kei Okano

 2009年、私は父によるカリグラフィーのプロジェクトを始めました。ベトナム語がアジアのなかで唯一ラテン文字に変換された言語であるという、とてもシンプルなことに由来しています。父はレストランのメニューや看板を手書きで書いたりすることで、生計を立てていました。彼はベトナム語の文字を通して英語やフランス語の看板を書いたのですが、実際にはその言語の意味を理解していませんでした。それは、植民地時代の歴史がどのように具現化されるかを表したことで、私はこのシンプルな事実に非常に魅了されたのです。

展示風景より
©︎ Danh Vo, courtesy of Take Ninagawa, Tokyo. Photo by Kei Okano

 同じ年、私がレジデンスでパリに滞在していたときに、ベトナムの話を思い出しました。ベトナムは、多くの宣教師が処刑された場所です。私は、ベトナム戦争に関連した作品をいくつか制作したことがありますが、戦争に興味があったわけではありません。私は権力の継続的な悪用に興味がありました。ある国家や人物、あるいは何かが支配的であればあるほど、他の人々を抑圧してしまうというサイクルに興味があったのです。そういったなか、ベトナム人がフランス人の宣教師を支配し、処刑していた時代を発見しました。

 調べているうちに、処刑された宣教師のなかでもっとも有名なジャン・テオファン・ヴェナールの手紙を見つけました。彼が自分の父親に宛てて書いたこの手紙はとても詩的で美しいです。それを見つけたとき、これこそ私の父が残りの人生をかけてやるべきことだと思いました。この14年間、父はこの手紙を2500通以上複写しました。これは私の仕事における重要な作品のひとつで、すべての展覧会には必ず父が複写した手紙を展示しています。

ヤン・ヴォー 2.2.1861 2009−
©︎ Danh Vo, courtesy of Take Ninagawa, Tokyo

──あなたの作品には、個人史に関連したものや、誰かと協力した要素がつねにあります。あなたの作品を見るときはいつも、あなたの作品だけでなく、ほかの人との関係を見ることができます。それは、あなたがプロジェクトを実現するための考え方に根本的に影響するようなことだと思います。

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