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ソウルで見る、世界最大級の個人コレクション「ピノー・コレクション」【3/3ページ】

ヨム・ジヘによるスペシャルインスタレーション

 サンローランのソウル旗艦店におけるスペシャルインスタレーションは、クリエイティブ・ディレクター アンソニー・ヴァカレロがキュレーションしたもの。旗艦店に2つの大きなスクリーンが設置され、ファッションとアートが出合う空間が生み出された。ここで展示されているのが、韓国のアーティスト、ヨム・ジヘによる映像作品だ。

展示風景より、ヨム・ジヘ《Le Soleil Noir》(2019)

 ヨムは1982年生まれ。2006年にソウル国立大学美術学部を卒業後、ロンドンに移り、08年にセントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで美術修士号を、11年にゴールドスミス・カレッジで美術修士号を取得した。学際的なリサーチに基づく活動で知られるヨムは、その作品で、現在の出来事を引き起こす目に見えない力を調査し、経験の感覚を強調する。過去、現在、経験、記憶の間のつながりや曖昧な境界を探求することで、動く映像を通してオルタナティブな世界観と新しいコミュニケーション様式を提案している。 

 展示作品は、ヨムの代表的な映像作品である《Le Soleil Noir》(2019)と《The Manifesto of Handstanderus》(2021)の2つ。

 ヨムは今回の展示について、「これまでギャラリーや美術館など、主に展示空間で展示してきたので、展示空間以外の場所で作品を魅せるというのは最初は難しかった」振り返りつつ、こう語る。「おそらく、映像作家と一緒に仕事をしたサンローラン側も同様だったと思います。映像が映し出される条件、例えば作品の音とストアの音のぶつかり合い、作品と作品の距離、作品が映し出される光とストアの照明など、考慮しなければならないことがたくさんありました。それでも、作品が良く見えるようにサンローラン側が協力してくれたので、お互いに良いかたちに仕上がったと思います」。

 ヨムの作品で興味深いのは、「人ならぬもの」が主軸となっている点にある。これについてヨムは「タコ、アザラシ、小さな幽霊 キャスパー(マンガのキャラクター)、植物などを簡単で軽い方法で擬人化することで、いま私たちが目の当たりにしている重く複雑な問題に浅はかなアプローチをしようとしているわけではありません」としたうえで、その狙いをこう語ってくれた。「人間である私が発する以上、それはあくまで人間の視線と声になるのでしょう。しかし、作品で明らかにされているように、ほかの動物や植物、幽霊など、目に見えないものとしてこの世界を見れば、少し違う方法で世界を見ることができるのではないかという思考実験をしているのです。 親しみやすい方法で」。

展示風景より、ヨム・ジヘ《Le Soleil Noir》(2019)
展示風景より、ヨム・ジヘ《The Manifesto of Handstanderus》(2021)

 ヨム・ジヘは現在、《最後の夜》というタイトルの映像作品を制作中だという。「《最後の夜》は、まだ残留している(これからもっと大きく近づいてくる)災難の時間に目を覚ましていなければならないという圧迫感のなかで描く映像作品です。この作品における私のテーマは、映像の時間性をどのように異なる方法で実験できるか、加速の時代にどのように一時的に止まることができるかということです」。同作は、12月にソウル市立北ソウル美術館で展示予定だ。

 なお、この旗艦店では、ピノー・コレクション、サンローラン バビロン、SLエディションズから厳選された書籍と、サンローラン リヴ・ドロワのライフスタイル商品が開催期間限定で販売されているので、あわせてチェックしてほしい。

編集部

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