ファッション史にその名が燦然と輝くデザイナー、イヴ・サンローラン(1936〜2008)の唯一無二の片割れであったベティ・カトル―。彼女に焦点を当てながら、サンローランのクリエイティブの過去と現在を紐解く展覧会「BETTY CATROUX - YVES SAINT LAURENT 唯一無二の女性展」が、東京・天王洲の寺田倉庫 B&C HALL / E HALLで開催されている。会期は12月11日まで。
1962年にピエール・ベルジェ(1930〜2017)と共同でクチュールメゾンを設立したイヴは、革新的なブランドとしてファッション界を席巻する。そんなイヴが、ベティ・カトルーとナイトクラブで出会ったのは1967年のことだった。
以降、イヴとベティは生涯にわたり交友を築いていくが、あくまでそれは友人としての立場で、仕事のパートナーでも恋愛上のパートナーでもなかった。本展は、そんなベティとイヴの友情とそこから育まれたクリエイティブの数々とともに伝えるのが本展だ。会場入口では本展のコンセプトを体現するかのうように、イヴとベティが並んだ巨大なポートレートが来場者を迎えている。
本展は、ベティとイヴの交流のなかで撮影されたプライベートな写真から、イヴ・サンローランのコレクションピースまでが並ぶ。その多くがもともとベティの私物であり、19年にピエール・ベルジェ=イヴ・サンローラン財団に寄贈されたものだ。
ファッション・ポートレートとともに、モノトーンで統一されたベティの自宅で撮影された個人的なポートレート、街角でのベティのストリートスナップ、イヴがベティのために製作したというギリシャの海と島々をモチーフにした切り絵なども展示されている。華々しいファッション界の裏にあったベティとイヴの私生活やささやかな楽しみを感じることができるだろう。
また、ポートレートの中でたたずむ慄然としたベティのスタイルには、多くの人が魅入られてしまうだろう。彼女の長い手足を際立たせるパンツやジャケットの着こなしからは、時代を越えた普遍的な美しさを感じられるはずだ。彼女はまさに、イヴの理想的なルックを体現した存在だったことがよくわかる。
イヴはこうしたベティのスタイルや生き方をアイデアの源泉として、数々の名コレクションを世に送り出していった。会場には、イヴ・サンローランの歴代のコレクションピースが、イヴをイメージした金髪にサングラスをかけたマネキンに着せられている。美しいシルエットのスラックス、マニッシュなレザージャケット、タキシードスタイル、モノトーンのコーディネートなど、女性を軛から解き放つようなアイテムの数々が、ベティの精神と共鳴していることを発見できるだろう。
現在のサンローランでクリエイティブ・ディレクターを務めるアンソニー・ヴァカレロもまた、イヴと同様にベティから多くの影響を受けながら現在のサンローランのコレクションをかたちづくっている。会場に並んだアンソニーによる近年のコレクションピースからはそれがよく伝わってくるはずだ。サンローランというブランドが、稀代のデザイナーであったイヴのディティールをただ追走するのではなく、ベティとイヴの友情という個人的なエッセンスと、そこで育まれた精神に多大なリスペクトを持っていることが本展を通して明らかになる。
展覧会の終盤に展示されている映像では、アンソニーとベティが財団に寄贈されたコレクションピースを見ながら語り合う様子が見られる。ベティは気さくな様子でそれぞれのアイテムに込められたイヴとのエピソードをアンソニーに語っていく。イヴのアンソニーに向けられる目は優しく、アンソニーはイヴに対して最大限の敬意を払っていることが映像からは伝わってくる。サンローランのクリエイションには、今後もベティを通じてイヴの精神が受け継がれていくのだろう。
なお、会場ではイヴやベティに関連する書籍やグッズの特設ショップとともに、カフェも設けられている。ベティのスタイルを連想させるモノトーンのカフェで、ふたりの友情と輝かしいクリエイションの数々に思いを馳せてみてはいかがだろうか。