イヴ・サンローランが歩んだ現代ファッションに至る道。国立新美術館で「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」を見る
東京・六本木の国立新美術館で、20世紀後半のファッションを牽引したデザイナー、イヴ・サンローランの40年にわたるクリエイションの歴史を、ルック110体とアクセサリー、ドローイング、写真など262点を組み合わせて明らかにする展覧会「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」が開幕。会期は12月11日まで。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/main/1695132999600_c45f77dbb4a25959fe4c1dd8d0a173da.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1472&h=828&fit=clip&rect=0,378,4032,2268&v=14)
東京・六本木の国立新美術館で、20世紀後半のファッションを牽引したデザイナー、イヴ・サンローラン(1936〜2008)の大規模回顧展「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」が開幕した。会期は12月11日まで。
イヴ・サンローランは、1936年フランス領アルジェリア出身。10代でクリスチャン・ディオールに務め、ディオールの急死を受けて若干21歳でデザイナーに就任。1962年からは自身のブランド「イヴ・サンローラン」を発表し、以来2002年の引退まで約半世紀にわってファッションシーンをリードしてきた。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695133355549_6429cf9e13bf9965ab01f401fd32865d.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
本展はそんなサンローランの40年にわたるクリエイションの歴史を、ルック110体とアクセサリー、ドローイング、写真など262点を組み合わせ、12章構成で明らかにするものだ。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695133428007_2824597041f89f40a301691280040692.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
プロローグとも言える第0章「ある才能の誕生」は、サンローランの幼い頃から、ディオールで最初のコレクションを手がけるまでをたどる。展示されている13歳のときに制作したという愛についてのテキストとイラストをつづった小さな冊子や、16歳ごろに手がけたという紙でつくったドールや衣服で構成される自身のためのコレクションからは、表現者としての情熱が10代からほとばしっていたことが見て取れる。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695133379723_b50b87e3fc6ee5639c63f9668cc542c9.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695132352314_f7f0d2a993344eec85ab958614759731.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
第1章「初となるオートクチュールコレクション」は、1962年の「イヴ・サンローラン」として初となる春夏オートクチュールコレクションのピースが並ぶ。船乗りの作業着に着想を得たピーコート、活動的な女性を象徴するようなスカート・スーツなど、当時の人々が衝撃を受けたコレクションが、ランウェイを生き生きと歩くように展示されている。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695132446720_b056747fb3cf7c87a8ac80c3f0a2f57e.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695132468174_e68711dce669f81077146094dcc5e783.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
第2章「イヴ・サンローランのスタイル アイコニックな作品」は、本展のひとつのピークと言ってもいいだろう。この章ではサンローランが、いかに現代に連なるファッションの要素を革新的に提示してきたのか、代表的なルックから知ることができる。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695133012259_424a75688fb6ce1f55e2fa622cc127e1.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
サンローランの根幹を成す発想のスタイルが、男性服を着想源に女性服アレンジする、というものだ。例えば裾にかけてエレガントな広がりを持つパンツを組み合わせたタキシードや、飛行士や落下傘部隊が着用したジャンプスーツは、もとの衣服の要素を活かしながらも女性の身体のシルエットを引き立てるよう優美にアレンジされている。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695132647693_7a45f5aedaf77711ab47837f1d0baa8a.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
サンローランの手にかかれば、伝統的な男性服であるテーラードスーツも、新しい時代の衣服へと変貌した。女性の身体のラインを活かすパターンだけでなく、フランネル、ギャバジン、ベルベット、シルクと異なる素材を巧みに組み合わせ、またカンカン帽やクレープのブラウスをアクセントにすることで、トラディショナルなスーツという概念に新たな価値を与えている。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695132662875_a554ad79ccfa2f084e71576049bbfd9d.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
ほかにもネイビールックやサファリジャケットなど、サンローランは女性の社会進出が顕著となった時代と呼応するように、既存の男性服の要素を活動的な女性のための衣服としてつくり変えていった。そのいずれもが、現在のアパレルの店頭に並ぶ衣服にも受け継がれている。現代にも続くファッションの文脈を、会場に並んだルックからぜひ感じてほしい。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695132623970_15f35445e3dbaa71d1db781ee4a0fc02.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
第3章「芸術性 刺繍とフェザー」では、サンローランのクリエイションを支えていた、織工、染色、捺染、刺繍、金細工、銀細工などの職人の技が光るルックを展示。精緻な技術があるからこそ表現できた、オートクチュールならではの存在感あふれる服を見ることができる。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695133452040_366dc0890bade696824c9537d3891761.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695133474839_f075b362ed4a48809c75b252b4a28328.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
第4章「想像上の旅」と第5章「服飾の歴史」では、サンローランが異国や歴史上の衣服をリソースとしてつくりあげたルックを紹介。読書や美術作品の収集によって、モロッコ、アフリカ、ロシア、スペイン、中国と様々な土地への想像を膨らませてデザインに取り入れたサンローラン。それは、古代ギリシアやローマの彫刻、中世の装いなど、過去をも自在に行き来できる想像力だったと言える。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695132767149_fb46386031888db50defdcd5a700381b.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695134010451_d33377c3fe01225da2631bb37f1fed96.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
また、第6章「好奇心のキャビネット ジュエリー」では、天然の真珠や宝石に拘泥することなく、自由な発想でデザインされたアクセサリー群を紹介している。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695132855402_726545b8b14b3fe8ab7733e1d43433ad.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
第7章「舞台芸術―グラフィックアート」と第8章「舞台芸術―テキスタイル」では、演劇やバレエ、映画といった衣装を数多く制作したサンローランの仕事を紹介。生き生きとした舞台衣装のためのスケッチと、そこから生み出されたリアルクローズとはかけ離れた自由さを持つ衣装は、サンローランが洋服という媒体を通してあらゆる物語を表現しようとしていたことをいまに伝えていると言えよう。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695132912438_7959c262a9211ae20157a8d10d6f270f.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695132935586_e3ed9424424a57812a2174b64951109f.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
第9章「アーティストへのオマージュ」は、美術好きならそのオマージュ源をすぐに言い当てられるであろうルックが並ぶ。パブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラック、アンリ・マティス、ピート・モンドリアンといった芸術家たちの先鋭的な表現を吸収しながら、衣服のデザインへと取り入れるサンローランの貪欲な姿勢が現れている。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695133065489_245b9e810ec017f1c9ffe7e21b539784.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695133121226_7049937bdde899f10c0348931fbd176f.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
第10章「花嫁たち」はオートクチュールのショーの最後を飾るウエディングドレスを展示。サンローランにとってウエディングドレスは、伝統的なガウンから斬新なデザインまで、様々な表現を試みる場であった。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695133157966_ef555074bd22614a077381027e3377a9.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695133166706_1e571a58d59daf363e48af6ed7664869.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
第11章「イヴ・サンローランと日本」は、日本の文化や伝統に魅せられ、自身の創作へも取り入れていたサンローランと日本の関係をまとめている。また、サンローランのつくる衣服が当時の日本人にいかに影響を与えていたのかがわかる、雑誌や書籍の資料も展示。サンローランというブランドを愛する日本人の根源を見ることができる。
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695133223869_1250519240123d3c8db199795d87d464.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
![](https://bt.imgix.net/magazine/27814/content/1695133237632_6cf594ad6dbe07e8936ce064749ba711.jpg?auto=format&fm=jpg&w=1920&h=1080&fit=max&v=0)
豊富なルックの提示でサンローランというひとりのデザイナーの功績をたどる本展。展示を見終わったあとに街に出れば、その功績の延長線上にある衣服をまとった人々がいるはずだ。多くの人々は服飾の歴史を意識することもなく、しかしあらゆる文脈を引き連れながら今日も服を着ている。だからこそ洋服はおもしろく、いつも新鮮だということを、本展は多くの人に改めて印象づけてくれるはずだ。