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「没後300年記念 英一蝶―風流才子、浮き世を写す―」(サントリー美術館)開幕レポート。堪能するその多彩な手つき【4/4ページ】

 「第3章 英一蝶時代」は、1709年(宝永6年)に綱吉死去にともなう将軍代替わりの恩赦によって江戸への帰還を果たした一蝶が、「英一蝶」と名乗って精力的に制作に臨んだ時代を紹介する最終章だ。

 本章でまず注目したいのは、里帰りしたニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵している《舞楽図・唐獅字図屏風》だろう。表面に舞楽、裏面に唐獅子を描いた両面屏風で、表面は一蝶の師匠である狩野安信の形式を踏襲、裏面は狩野探幽とモチーフを同じにし、墨で一気に描いたような勢いを持つ。会場では表と裏、両面から本作を堪能することが可能だ。

展示風景より、《舞楽図・唐獅字図屏風》メトロポリタン美術館
展示風景より、《舞楽図・唐獅字図屏風》メトロポリタン美術館

 《釈迦十六善神図》は、近年発見された仏画。一蝶の晩年の釈迦如来図のなかでも出色の出来栄えとされている。《備後三郎題詩桜樹之図》は隠岐に流された後醍醐天皇を助けようとした、南北朝時代の武将・備後三郎を描いたもの。古典画題に回帰していた時期の作品とされ、堅く真面目な描写が印象的だ。

展示風景より、《釈迦十六善神図》個人蔵

 このように江戸帰還後の一蝶は、代名詞だった風俗画から離れる決意をし、狩野派の画法を引き継いだ花鳥画や風景画、古典的な物語絵や故事人物画などをおもに手がけた。しかし、それでも風俗画の依頼は途切れることなく、多くの作品がいまも残っている。

展示風景より、《備後三郎題詩桜樹之図》個人蔵

 メトロポリタン美術館所蔵の《雨宿り図屛風》は、一蝶の風俗画の到達点というべき傑作だ。東京国立博物館本よりも情景描写が充実しており、また各所に見られる試行錯誤の跡から、東博のものよりも前の制作とされる屏風絵だ。

展示風景より、《雨宿り図屛風》メトロポリタン美術館

 左隻に夏、右隻に秋の田園風俗を描いた《田園風俗図屛風》も風俗画の傑作のひとつ。左隻は雨宿りをする人々の仕草や表情豊かに描いており、また右隻は川や橋で遊ぶ子供たちの生き生きとした描写が見どころとなっている。このような風俗の情感豊かな描写は、一蝶の俳諧への知識も大いに役立っているとされており、風俗を描写するその目の確かさを存分に感じることができるはずだ。

展示風景より、《田園風俗図屛風》サントリー美術館
展示風景より、《田園風俗図屛風》サントリー美術館

 卓越した技術を持ち、古今様々な知識と技法のもとに多彩な画を残した英一蝶。それゆえに全体像がつかみにくい絵師ともいえるが、本展はそんな一蝶の全貌を明らかにする重要な展覧会といえるだろう。 

編集部

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