展覧会は「第1章 多賀朝湖時代」「第2章 島一蝶時代」「第3章 英一蝶時代」の3章構成で一蝶の生涯を追うもの。「第1章 多賀朝湖時代」では、初期の一蝶が狩野派を基盤としながらも、「多賀朝湖」と名乗り、風俗画家としての能力を開花させていく過程を追う。
四条河原の川床で夕涼みをする人々を描いた《四条河原納涼図》や、突然の雨で屋敷の軒下に逃げ込んだ老若男女の生き生きした姿が認められる《雨宿り図》などは、当時を生きた人の姿が躍動感とともに伝わってくる作品だ。
また《立美人図》は体をひねりながらふりむく女性の姿を描いたもので、菱川師宣の影響も指摘される作品。風俗画へ挑戦した初期の作品とされているが、その顔つきはすでに一蝶風となっており、このときにはすでに独自の道を歩みはじめていたことを示している。
加えて本章で注目したいのが《雑画帖》だ。山水、人物、花鳥、走獣、戯画、風俗画など多様な画題を扱った全三十六図から成る画帳で、狩野派色が強いものから、中国画家に倣ったもの、写生にもとづいたものまで、その画風のバリエーションはじつに豊かだ。一蝶が多彩な引き出しをもっていたことがよくわかる。