次の展示室では、ふたつ目のインスタレーション《巡る記憶》(2022/2024)が登場。編み込まれた無数の白い糸が空間に張り巡らされ、そこからは水が水盤に滴る。水盤は水滴に揺らされ、その水がまた循環し、水滴となるという作品だ。
その先に進むと、塩田が20歳のときに描いたふたつの絵画作品が出現。これらの作品について塩田こう語っている。「その当時、絵を描くことに行き詰まり、絵をやめて、糸を使って空間を編む表現に転向したことで、現在のような『自分らしい』作品をつくることができるようになった。この絵を展示することによって、自分のターニングポイントを再認識する機会となった」。
次に展示されるインスタレーション《家から家》(2022/2024)は、家や故郷に関わる作品であり、様々なかたちの家を赤い糸で編んだものだ。塩田にとって、赤は血液の色であり、そのなかには家族や国籍、宗教といった要素が含まれている。いっぽうで、家や国家、宗教といったものは超えられない壁のように感じられるという。
壁面に展示されている6チャンネルの映像作品《地と血》(2013)は、塩田が自身の流産と父の死を経験し、「とても落ち込んでいた」時期に制作したもの。しかしこの作品は、後にヴェネチア・ビエンナーレ日本館のコンペに選ばれた、赤い糸や無数の鍵で構成される《掌の鍵》の作品プランにもつながっていった。「その際に、人が大切にしているもの、手に握りしめるようなものとして鍵を集めた作品をつくりたいと思い、赤い糸で鍵と鍵をつなげることを考えた。(ヴェネチアの作品は)当時の辛さや苦しみがあったからこそつくり上げることができた」。