2008年に開館し、2010年には十和田のまちを美術館にするプロジェクト「Arts Towada」を完成させた十和田市現代美術館が、開館以来初めて常設作品を入れ替え。塩田千春の新作が披露された。国内の公立美術館で塩田の作品が常設されるのはこれが初めて。
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西沢立衛によって設計された同館は、草間彌生や奈良美智、ロン・ミュエク、スゥ・ドーホーといった国際的に活躍する33組のアーティストによる常設作品をコアとする美術館。展示室は「アート作品のための家」として、それぞれが独立しているのも大きな特徴だ。
この常設作品のうちのひとつであるキム・チャンギョムの《メモリー・イン・ザ・ミラー》が入れ替わり、新たに塩田千春のインスタレーション《水の記憶》(2021)が誕生した(一般公開は4月1日より)。
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19年に森美術館で行われた大規模個展「塩田千春展:魂がふるえる」で多くの人々に強烈なインパクトを与えた塩田は、生と死という人間の根源に向き合い、「生きることとは何か」「存在とは何か」を探求しながら、大規模なインスタレーションを中心とした作品を発表。国際的に活躍する日本人アーティストを代表するひとりだ。
今回誕生した《水の記憶》は、塩田の代表的なモチーフである「船」と「赤い糸」で構成。22万年前の火山活動によって形成されたと言われる十和田湖から着想を得たもので、かつて下北半島で漁に使われ、その後十和田湖に移された船から全長8.4kmの糸が空間へと広がっている。
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塩田は「船の記憶をつむぐような気持ちで制作した。糸が糸でなくなったとき、糸が見えなくなったときに作品は完成する。糸の向こう側の世界を見ていただければ」としつつ、常設作品としての展示については次のように語った。「美術館で長期展示されるのはこれが初めてなので嬉しい。こういう美術館が日本で増えれば」。
これから先、この作品は間違いなく同館のアイコン的な存在となるだろう。
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名和晃平やレアンドロ・エルリッヒの作品も
いっぽう、2023年9月までの期間限定ではあるものの、新たに名和晃平の作品も十和田市現代美術館の常設展示として加わった。展示場所は館内の倉庫を改修した展示室。インターネットで収集した動物の剥製や楽器などを透明の球体で覆った「PixCell」シリーズから、鹿の剥製を使った《PixCell-Deer#52》(2019)が佇む。十和田市現代美術館での寄託作品の長期展示は、これが初めての取り組みだ。館長の鷲田めるろはこうした取り組みによって、「美術館が様々な人に支えられていることを示したい」と話す。
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なお12月には、体験型の大規模なインスタレーションで知られるレアンドロ・エルリッヒの《建物─ブエノスアイレス》を、世界で初めての常設作品として公開。鏡の効果によって鑑賞者が重力に逆らうように自由なポーズを取ることができる作品で、今回は作家の故郷であるアルゼンチンのブエノス・アイレスで馴染みのあるファサードが採用される。作品は敷地内に新たに設けられる建物で展示される予定だ。
コロナ禍で企画展が次々と延期や中止となるなか、美術館ではコレクション展/常設展の重要性が見直される機運となっている。そのような時代において、長期展示できる常設作品をさらに強化する十和田市現代美術館の試みは、注目すべきものだと言えるだろう。
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