第1章「自然にかえりたい」では、植物モチーフや毛皮、鳥の羽など、自然界の素材を使用した衣装作品が紹介。様々な時代の花柄を、刺繍や織り、プリントといった多様な技法で表現した作品や、18世紀の男性用ウエストコート、そして、本物の鳥の羽や毛皮とエコファーや人工の人毛をそれぞれ使った、自然素材への欲求と動物愛護のバランスが時代とともに変化している様子がうかがえる多彩な衣装を見ることができる。
同章では、小谷元彦が女性の毛髪を集めて三つ編みにしたドレス《ダブル・エッジド・オブ・ソウト》(1997)も展示。作品に使われている本物の人間の髪の毛は、身体から切り離されると、不快なものや廃棄物として扱われるいっぽうで、髪を編み込む行為は、思いを込めることにつながるとも考えられている。
第2章「きれいになりたい」では、コルセットや膨らんだ袖のドレスなど、各時代の理想的なシルエットを追求した衣装が展示され、それぞれの時代の美しいとされるフォルムを自身の身体に重ね合わせるという欲求を反映している。これらの衣装とあわせて、スイスのアーティスト、シルヴィー・フルーリーのインスタレーション《No Man’s Time》と《フィッティング・ルーム》(いずれも2023)も紹介されており、ファッションや消費社会、そして「私をきれいにしたい」という欲望との関係を探求している。
第2章「きれいになりたい」と第3章「ありのままでいたい」のあいだに展示されているのは、澤田知子が400種類の変装した証明写真を並べた作品《ID400》(1998)だ。澤田は同作で、服だけでなく、メイクや髪型、表情までも変えて、様々なアイデンティティや社会的属性を探求。この作品は、「私じゃない私になりたい」という気持ちと、「ありのままの自分でいたい」という両方の感情を体現し、ふたつの章に深く関わる内容となっている。