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「LOVEファッション―私を着がえるとき」展(京都国立近代美術館)開幕レポート。装いに見られる人間の愛と欲望【4/4ページ】

 第5章のテーマは「我を忘れたい」で、非日常的な服が中心に紹介されている。例えば、蝶に変身するウォルトの1910年代のドレスや、胸元に唇をあしらったロエベのシュールなドレス、そして、コロナ禍の世界的なロックダウン中にバレンシアガがバーチャル世界で発表し、後に実物をつくり上げた鉄の鎧のような衣装などは、様々な変身のかたちで「我を忘れて別の人になる」というテーマを表現している。

第5章「我を忘れたい」の展示風景より
第5章「我を忘れたい」の展示風景より、ロエベ/ジョナサン・アンダーソンドレス(2022秋冬)
第5章「我を忘れたい」の展示風景より、バレンシアガ/デムナ・ヴァザリア鎧、靴(2021秋)

 同じ展示室では、AKI INOMATAがヤドカリのためにつくった透明な殻の作品も並ぶ。殻の上には、オランダ、ベルリン、ニューヨーク、東京、パリなど、様々な都市のモチーフが載せられており、ヤドカリにとって殻は衣服や住居のような存在とも言える。殻を変えることで、アイデンティティが変わったりまるで違う存在に見え、人間の国籍が変わったり立場が変わったりすることをも象徴している。

第5章「我を忘れたい」の展示風景より、AKI INOMATAの作品

 また、第5章は4階の展示室にも続く。ここでは、デザイナー・久保嘉男が不動明王、熊、日本の獅子舞をモチーフにした衣装や、TOMO KOIZUMI(小泉智貴)がデザインし、東京オリンピックの開会式で歌手のMISIAが着用したドレスなどが展示されている。

第5章「我を忘れたい」の展示風景より、久保嘉男の衣装作品
第5章「我を忘れたい」の展示風景より、小泉智貴がデザインしたドレス

 同章の最後を飾るのは、原田裕規の映像作品シリーズ「シャドーイング」(2024)だ。同作は、TERRADA ART AWARD 2023でも展示した同シリーズより、本展のために制作した新作2点と旧作1点を織り交ぜたもの。CGで生成した、日系アメリカ人をモデルとした「デジタルヒューマン」が「ハワイ・ピジン英語」を操って物語を語り、原田はその声をシャドーイング(復唱)することで「声の重なり」をつくりながら、自身の表情をデジタルヒューマンにトラッキング(同期)させることで「感情の重なり」を表現している。牧口は、「この作品は、自画像から始まり、最終的に『私』に戻るという展覧会の締めくくりとしてふさわしい作品だ」と話す。

第5章「我を忘れたい」の展示風景より、原田裕規「シャドーイング」シリーズ(2024)

 人間の根源的な欲望や本能とも言える衣装。各時代の様々な衣装作品と現代美術を通じて、ファッションと自己表現、自分自身と他者との関係などについて考えてみてはいかがだろうか。

編集部

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