六甲有馬ロープウェー 六甲山頂駅
いまはもう稼働していないゴンドラが残る六甲有馬ロープウェーの六甲山頂駅。彫刻家・葭村太一は、ゴンドラの側部に描かれた花のイラストをモチーフに、《四基の花》を生み出した。20年間吊り下げられたままの4基のゴンドラをドライフラワーに見立て、木彫によって強い存在感を与えた。
六甲ガーデンテラスエリア&トレイルエリア
六甲山頂駅から徒歩圏内の空き地に出現したのが、金氏徹平の《tower (ROKKO)》だ。この作品は、立体に穴が開き、様々なものが出入りする「tower」シリーズの新バージョン。今回は「穴」そのものの写真でできた彫刻となっており、風景に異なる位相を与えている。
神戸の街が一望できる六甲ガーデンテラス。ここで布施琳太郎は、彫刻《ニューノーモン:新たな大地のための日時計》を見せる。古くからある日時計に、古事記に出てくるオノマトペを抽出・再構築した文字を刻んだ意欲作だ。
六甲ガーデンテラスからほど近いトレイルエリアに出現する、イノシシに関する注意書きの看板。これは水田雅也による《イノシシ村のお願い》だ。かつて六甲山には「イノシシ村」と呼ばれる地域があったほど、イノシシと人間の距離は近かった。しかしいまやイノシシは害獣として見なされるようになっている。本作は、時代によるイノシシと人間の関係の変化、そしてその関わり合いの難しさを、ユーモアをもって伝えるものだ。
関西で著名な「六甲おろし」は、六甲山系から海側へと吹きおろす山おろしを指す。尼崎出身の松田修による《六甲おろさない》は、巨大な送風機によって風を海側から山側へと送り、六甲おろしを「おろさない」ようにするという作品。一見ギャグのようにも見えるが、「海のほう」「山のほう」という阪神地域にある住所による格差に抗う態度を示したものでもあるという。なおこの《六甲おろさない》は、会場のあちこちで出会うことができる。
道路脇に突如現れる白い建物。ペンキで塗られた家屋のように見えるが、じつは発泡スチロールでできたものだ。これは、西野達による新作《自分の顔も思い出せやしない》。廃屋になった売店「竹中茶屋」を、発泡スチロールによって覆ったもので、かつてここにあった人々の痕跡をいまに伝える。
なおこの作品から奥に入った森林の中には、堀田ゆうかと近藤尚のインスタレーションも展示されているので見落とさないようにしてほしい。
森林の中に置かれたテーブルには、布や土が収められている。nl/rokko projectの《SYMBIOSIS: 生命体の相互依存・共生戦略》は、オランダで生まれた「Zoöp」を作品化したもの。「Zoöp」とは、デザインや議論の意思決定プロセスの際、人間が人間以外の生命体の意見を代弁し、取り入れるというものだ。
福島周平の《wraps》は、路上で見かけるビニールシートに包まれた物体から着想されたもの。何かが包まれているように見えるが、じつはシートそのものが樹脂で固められ、内部は空洞になっている。「中に何かがあるはず」という先入観を裏切るものだ。
昨年、中﨑透が大規模なインスタレーションを発表したバンノ山荘。今回は青木陵子+伊藤存がこの別荘全体を使い、《歌う家》を展開する。いまは使われていない別荘の記憶を呼び起こし、家が鑑賞者に語りかけるかのような作品となった。
K-POPスターとして知られるウ・ヒョンミン。現在、アーティストとして活動するヒョンミンは今回、六甲で滞在制作を行い、船をテーマとした作家初の野外インスタレーション《山の音》を発表した。一艘の船が古着で覆われており、内側にはハングルや絵が描かれている。漁に出て帰らぬ人となったヒョンミンの祖父に関する記憶を起点に制作された作品だ。
昨年設置された川俣正の《六甲の浮き橋とテラス》。人工の池に浮かぶ島に舞台を組み、そこへと続く浮き橋によって構成されているこのテラスが今年は拡張。水面から10センチ沈んだ沈下橋も増築された。会期中にはこの沈下橋を渡るイベントも予定されているという。