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太田記念美術館の「美人画 麗しきキモノ」で見る、250年間のモード

東京・神宮前の太田記念美術館で「美人画 麗しきキモノ」がスタートした。江戸時代前期から昭和初期にかけて描かれた「美人画」を通覧することで、当時の世俗をじっくりと堪能したい。会期は9月1日〜10月22日(展示替えあり)。

展示風景より、菱川師房《美人遊女図》(1688〜1704頃)

 当時の最新モードをまとった女性を描く「美人画」。その歴史を通覧するとともに、時代によって変わる流行や着こなし、そして着物の意匠にまだ迫る展覧会「美人画 麗しきキモノ」が、東京・神宮前の太田記念美術館で始まった。会期は10月22日まで(前後期で展示替えあり)。担当学芸員は赤木美智。

 本展は、江戸前期から昭和初期にかけての作品を、前後期あわせて約130点展示。会場は「美人画の歴史」「町方の女性」「花街の女性」「武家の女性」「男性の装い」「模様をまとう・物語をまとう」の6セクションで構成されている。

展示風景より

 もっとも多くの作品が揃う第1セクションでは、菱川師宣から鈴木春信、喜多川歌麿、月岡芳年、伊東深水まで、各時代を代表する絵師たちの優品がずらりと並ぶ。

 なかでも本展のメインビジュアルにも使用されている、菱川師房の《美人遊女図》は見逃せない逸品だ。師房は《見返り美人図》で知られる菱川師宣の子。左側に立つ遊女の振袖をじっくり見てみよう。そこに散りばめれた色紙に描かれているのはじつに繊細に表現された『伊勢物語』だ。また布地には白の斑点が施され、縮緬の質感が見事に表現されている。

展示風景より、菱川師房《美人遊女図》(1688〜1704頃)

 続く「町方の女性」は、市井の人々の装いがわかるセクションだ。菊川英山の《朝顔の三美人》では、左に立つ母親の小袖の模様に注目。これは人気役者・三代目坂東三津五郎が衣装に取り入れたことで人気になった花勝見の総模様を取り入れたもので、流行を取り入れたファッションと言える。

展示風景より、菊川英山《朝顔の三美人》(文化末〜文政初)
展示風景より、歌川国貞《歳暮の深雪》(1844〜46)

 町方の女性とは対照的なのが花街の女性たちだ。教養や芸の腕、そしてその装いで自らの存在をアピールすることが求められた花街の女性を描いた作品では、江戸を彩った豪華絢爛な装いに目を奪われる。とくに島原の太夫、大坂新町の太夫、そして吉原の花魁をそれぞれの都市の絵師が描いた《三都遊女図》では、各都市の差異も楽しめるだろう。

展示風景より、左から浅山芦国・山口素絢・勝川春暁 画/山東京山 讃《三都遊女図》(1804〜18頃)、豊原国周《見立昼夜廿四時之内 午後六時》(1890)、渓斎英泉《月夜柳下の芸妓図》(1818〜44頃)

 本展の主役は女性ばかりではない。現代に劣らず江戸時代の男性たちも装うことに情熱を傾けた。ここではそんな「和装男子」も紹介されている。

 暗い色味のキモノに赤い帯をあわせる「腹切帯」と称される独特の着こなしや、輸入品である金唐革を使用した煙草入れなど男性たちの小物へのこだわりも楽しい。現代にも通じるような大胆な弁慶縞模様を背景に、若手人気俳優を描いた歌川国貞の《御あつらへ三色弁慶》や、1枚の絵にドラマを感じさせる歌川豊広の《観桜酒宴図》などにも注目だ。

展示風景より、歌川国貞《御あつらへ三色弁慶》(1860)
展示風景より、歌川豊広《観桜酒宴図》(1801〜04頃)

 展示の最後を飾るのは、少し奇抜な模様の数々。絡まる蝶をも表した蜘蛛の巣模様や碁盤模様の小袖。モチーフが独特であるからこそ、その意味を想像する楽しさがあるだろう。

 本展を通覧すると、いかに着物が自由かつ自己表現として重要なメディアであったかがよくわかる。250年に渡る美人画の系譜を、ファッションの中心地である原宿で見つめなおしてみてはいかがだろうか。

展示風景より、歌川国貞(三代豊国)《江戸名百人美女 妻恋稲荷》(1857)

編集部

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