東大生によるメディア・アートの展示会「東京大学制作展 2022 Emulsion」が東京大学本郷キャンパスにて開催中。コロナ禍以降初の対面展示となる今回は、過去最大級規模の4会場実施されている。会期は11月21日まで。
「東京大学制作展」は多種多様な専攻・関心を持つ学生が集まり、作品の制作から企画、運営を行い開催されてきた展覧会。今年のコンセプト「Emulsion」は、多様な個性が混ざり合い、反発し、近づいたり離れたりして生まれる表現の数々に寄せて考案されたという。
第1会場(工学部2号館 2階展示室)入口には、メインビジュアルの制作過程を展示。同会場内には、3Dスキャンする現実空間に鏡を設置することで生まれた「歪み」を含む非実在の空間を展示する《cubiSm》(佐藤良祐、藤堂真也)や、ハーフモデルに着目してAIを用いて生成した「ema model」と架空のAIモデル事務所「ema agency」を展示する《ema NEW FACE》(ラウリー華子、山下夏生、溝𦚰 由女)など6作品が展示されている。
第1会場を出た先にある第0会場(工学部2号館フォーラム)は、5作品を展示する半屋内の空間。そこには、訪れた場所で拾った枝と布だけで建てる生命体のような家《nomadic house》(建道佳一郎)や、インスタントハウス内で感覚過敏の人たちが落ち着きを取り戻す過程を感じられるVR《Inclusive Quiet Room -共生社会を目指して-》(木村正子ほか)など、大規模な立体作品が展示されている。
また、キャンパス内の落ち葉にQRコードを刻印し、他者とすれ違う偶然の出会いをデジタル空間へと拡張する《一葉》(柴田博史 ほか)など、空の下で鑑賞するにふさわしい作品も楽しむことができる。
エレベーターで移動した先に、第2会場(工学部2号館 9階92B)がある。照明を落とすことで講義室を展示室に変えた会場には、松久研究室で開発されたゴムのような性質を持つ電子デバイス「伸縮性エレクトロニクス」を用いた未来の楽器《Sound Tattoo》(森達哉、李沐航)や、共感覚を持つAIの視覚を体感できる《ココロミタ》(中澤紀香、山崎丈、西田直人)など、とりわけ学際的な性質の強い作品が展示されている。
いっぽうで、「クーイング」柄のTシャツとその着画映像をを通して「日常に溶け込む赤ちゃんプレイ」を実現する《Listen to my cooing》(大森功太郎 )や、「推しに膝枕されたい」という欲求から生まれた段階的にリアリティが増すVR作品《Alternarrative》(松本篤弥ほか)など、プライベートな性質を強く感じさせる作品も並ぶ。
そのほか、壊れかけのロボットとして自らの脳を開き身体システムを修復する体験を通して機械生命の自己を問う《Mechanical Brain Hacking》や、名前や数字に代わる新たなアイデンティティの可能性として「模様」を提案し、来場者も実際に模様をつくることができる《マイ模様》(吉川諒 ほか)などの自我同一性に着目した作品も鑑賞・体験できる。
少し離れた第3会場(情報学環本館 地下1階 情報学環オープンスタジオ)に足を踏み入れると、7つの作品をが並ぶ薄暗い空間が広がっている。この会場には、住居でペットとして生きる猫が立てる音を模倣して猫の感覚に立つことで聴覚から自然と人間の関係を考える《Cathrophony》(中橋侑里)や、同じものを見ても感じる美しさは「人それぞれ」という現象を風景に還元することを試みた《curtain ver.2》(藤堂 真也、森田和真、呉夢瑶)、氷が溶ける過程で発生する水の動きを集光現象(コースティクス)を用いて現したモビール《ひかりあつめ》(神園 千鶴、 青山佳音)などのインスタレーション作品が展示されている。
そのほかにも、時間評価に影響を与えるマルチモーダルなトリックがコーディングされたVR環境を体験できる《30 sec?》(太田貴士、森達哉)や、同展の来場者との鑑賞についての対話からダイナミックなビジュアル(文字・形・色彩)によって描く双方向的な作品《鑑賞を鑑賞する》(仲沢実桜、楊梓桑、堀部咲歩)など、多種多様な作品を展示。来場すれば、他者の知覚を想像し自らの知覚を問いかける表現に出会うことができるだろう。
どの会場にも、考え抜かれた密度の高い作品が並ぶ同展。会場内のスタッフも出展している学生なので、作品に関する質問もぜひ尋ねてみてほしい。そんな作者・作品・観客の出会いから生まれる創造性こそが、今回のコンセプト「Emulsion」には込められている。
なお来場には公式サイトからの事前予約が必要。体験型の作品も多いため、時間にゆとりをもって訪れたい。