東京大学駒場博物館で、首都圏の美術館では20年ぶりとなる美術家・宇佐美圭司(1940〜2012)の個展「宇佐美圭司 よみがえる画家」が開催される。会期は4月28日〜6月27日。
この展覧会の背景にあるのは、2017年に起きた東京大学中央食堂にあった宇佐美の絵画《きずな》(1977)が、改修工事にともなう不用意な廃棄処分によって失われてしまったことだ。東京大学ではこの件を受けた同展の企画意図について、「取り返しのつかない結果をもたらした反省にたち、宇佐美氏の長年の活動を振り返り、その作品が提起したことを学んで、芸術とともにあることの大切さを考える機会にできればと考えています」としている。
宇佐美は1940年大阪府生まれ。高校卒業後に上京し、1965年にはアメリカで起きた人種差別に対する暴動事件・ワッツ暴動の写真から切り出した人型を用いた絵画を展開。晩年は制動が変化させる運動エネルギーをテーマにした「大洪水」シリーズの制作に取り組んだ。また、レーザー光線を用いた作品や、横顔を組み合わせた作品でも知られ、2002年には芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。武蔵野美術大学や京都市立芸術大学の教授も歴任し、著書も多数ある。
展覧会では、宇佐美が1968年に発表した、世界最初期のレーザー光線を用いた作品《Laser: Beam: Joint》を、量子光学を専門とする同大学の久我隆弘教授と竹内誠助教の協力のもと再制作。当時の資料を分析しながら、現在の科学技術を用いて再現する。
また、失われた《きずな》の再現画像を作成して映像で展示。この映像を1980年に再制作されたマルセル・デュシャン《花嫁は彼の独裁者たちによって裸にされて、さえも》とともに展示することで、現代美術における再制作を論点とする。
ほかにも60年代のものから晩年の作品まで、計10点の宇佐美の作品を展示。また、展示作品のみならず、宇佐美の代表作の図版も収録したカタログも作成。同大学名誉教授の高階秀爾や、美術家の岡﨑乾二郎の寄稿文や、宇佐美の略歴、展覧会歴、文献目録も収録した資料性の高いものとなる。
これまでに東京大学では、宇佐美の作品廃棄を重い教訓として受け止め、2018年に《きずな》に関するシンポジウムを開くなど、宇佐美の活動の再評価に取り組んできた。本展もこうした活動の一環として位置づけられており、一般公開に先立つ4月13日〜27日の2週間は、同大学の学生や職員が鑑賞する期間とする。