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2022.1.20

道後温泉を覆う大竹伸朗の巨大アート。「地熱の持つエネルギーをテーマに」

国際的に活躍する画家、大竹伸朗が、愛媛県松山市にある、国の重要文化財にも指定されている道後温泉本館を覆うテント膜《熱景/NETSU-KEI》の原画を担当した。現在、道後温泉の新しいアート作品として住民、観光客の注目を集めている。

文=浦島茂世

工事中の道後温泉本館と素屋根テント膜《熱景/NETSU-KEI》 © Shinro Ohtake / dogo2021
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 日本最古の温泉とも言われ、聖徳太子も立ち寄ったという伝説のある愛媛県松山市の道後温泉。古くからの温泉街として知られているこの街では、2014年から芸術祭「道後オンセナート」が開催され、アートの街としても徐々に認知されはじめている。

 この街を象徴する建築物が国の重要文化財にも指定されている道後温泉本館だ。夏目漱石が頻繁に通い、宮崎駿監督の映画『千と千尋の神隠し』に登場する「油屋」を描く際の参考になったことでも知られる荘厳な建物は、かつては道後オンセナートの展示会場としても使用されており、最先端の芸術と古くからの歴史が交差する場となっている。 

 現在、道後温泉本館は2024年12月末まで営業しながら保存修理工事が行われており、2021年7月より後期工事が開始された。このタイミングにあわせ、現場を覆う素屋根テント膜の原画を画家の大竹伸朗が手がけることとなった。大竹がテント膜に名付けた作品名は《熱景/NETSU-KEI》。水・熱・光、また人や街の生み出すあらゆるエネルギーをテーマにしているという。

現在、道後温泉本館は本来の玄関とは異なる東面に入り口を設け、「霊の湯」のみで営業を続けている。屋根を覆う素屋根テント膜の東側に描かれているのは石槌山の姿 © Shinro Ohtake / dogo2021
上空から見ても鮮やかな彩り © Shinro Ohtake / dogo2021

 大竹は1955年生まれ。1988年から愛媛県宇和島市を拠点に定め、コラージュなどの絵画や立体作品、デザインや絵本など様々なジャンルの垣根を飛び越え作品を発表し続けている。

素屋根テント膜作品の完成に合わせて12月18日に開催された開催されたトークイベントで語る大竹伸朗 Photo by Hiroaki Zenkew

 今回の素屋根テント膜は、紙を指でちぎって貼り付ける「ちぎり絵」の手法と、世界各地の紙を用いてつくりあげた。5枚の原画を約25倍に拡大し、ターポリン素材に高精細プリントしている。紙と紙との重なり合いや、そこから生まれた陰影、紙の切断面から覗く繊維までもが精細に拡大されている。

路上から見たテント膜《熱景/NETSU-KEI》の一部。ちぎった紙の断面が大きく拡大されている 撮影=浦島茂世

 12月18日に開催されたトークショーで大竹は、「以前、同じ手法で原画を拡大したことがあるが、当時の技術では原画を拡大すると、作品がぼやけ、エッジがにじむこともあった。今回は細部まで鮮明に印刷されている」と仕上がりの良さを語った。「この依頼を受け、最初はとても光栄に思ったものの、あとから不安が追いかけ、眠れない日々を送った」と葛藤があったことも告白。「地熱の持つエネルギーをテーマに、親しみを感じられる作品を作ることが出来たと思う」とも語る。

夜の道後温泉本館と《熱景/NETSU-KEI》 撮影=浦島茂世

 テント膜は見る場所で大きく表情を変える。交通量が多い南側には道後の湯を発見したと言われ、道後のシンボルとなっている「白鷺」を、東側には西日本最高峰の「石鎚山」、商店街からも見える西側には街や地図をモチーフにした図案を配した。

西面は街や地図をモチーフにしたデザイン © Shinro Ohtake / dogo2021

 ちなみに大竹は今年11月1日より東京国立近代美術館で「大竹伸朗展(仮)」の開催を予定している。この展覧会について大竹は、「2006年に東京都現代美術館で行った「大竹伸朗 全景 1955-2006」以降に制作した作品の展示も検討しているものの、美術館の建物の天井高が低く、作品の搬入出が困難なことが現在の懸念点。この問題をクリアし、「濃密な展覧会を開催したい」と意気込みを語った。

 なお道後温泉は、2022年4月から約1年弱の予定で芸術祭「道後オンセナート2022」を開催する。道後温泉を訪れ、芸術祭とともに大竹伸朗の巨大なパブリックアートを楽しんでみよう。

*一部内容を修正しました