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2021.4.24

昭和の「キャバレー王」のコレクションが一堂に。東京ステーションギャラリーで「コレクター 福富太郎の眼」開幕

東京ステーションギャラリーで「コレクター 福富太郎の眼」が開幕した。本展は、昭和の「キャバレー王」と呼ばれた福富太郎のコレクションから約80点を一堂に紹介するものだ。

展示風景より、左は北野恒富《道行》(1913頃)
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 1964年の東京オリンピック景気を背景に、全国に44店舗にものぼるキャバレーを展開して、「キャバレー王」の異名をとった実業家・福富太郎(本名=中村勇志智、1931~2018)。そのコレクションを一堂に紹介する展覧会「コレクター福富太郎の眼 昭和のキャバレー王が愛した絵画」が東京ステーションギャラリーで開幕した。

展示風景より、左から鏑木清方《薄雪》(1917)、《刺青の女》(1913)

 福富は16歳で銀座のキャバレーのボーイとなり、31歳のときにキャバレー「銀座ハリウッド」をオープン。その後キャバレーを全国展開し、昭和の「キャバレー王」と称された。福富は実業のかたわら、父親の影響で少年期より興味を持っていた美術品の蒐集に熱中。近代日本美術の油彩画や女性像を中心とする日本画、そして幼少期の記憶である戦争画を収集していく。

 本展は、福富が生前に親しく交流していた山下裕二(美術史家・明治学院大学教授)を監修に迎え、そのコレクションの流れを追うとともに、コレクター・福富太郎の全貌に迫るもの。会場は「コレクションのはじまり」「女性像へのまなざし」「時代を映す絵画」の3章で構成されている。

 福富は念願だった鏑木清方(1878~1972)の日本画を手はじめに蒐集をスタートさせている。第1章では、刺青を入れた女を描いた《刺青の女》(1913)や、第二回帝展に出品された際に賛否両論を呼んだという大作《妖魚》(1920)など、鏑木清方の作品13点が鑑賞者を迎えてくれる。

展示風景より、左は鏑木清方《妖魚》(1920)

 続く「女性像へのまなざし」は、福富のコレクションの核である近代日本画の女性像がずらりと並ぶ。この章では冒頭の清方を軸として、渡辺省亭や梶田半古、伊東深水らの作品も見ることができる。とくに伊東深水の《戸外は春雨》(1955)は、日劇ミュージックホールの楽屋を取材して描かれたもので、深水にとっては異色の作品だ。

展示風景より、伊東深水《戸外は春雨》(1955)
展示風景より、左から鰭崎英朋《生さぬ仲》(1914)、尾竹竹坡《ゆたかなる国土》(1916)
展示風景より、左から梶田半古《天宇受売命》(1897頃)、池田蕉園《秋苑》(1904)、松本華羊《殉教(伴天連お春)》(1916頃)

 福富は世相を反映する絵画も積極的に収集した。それは「時代を映す絵画」に並ぶ作品からも見て取れる。とくに重要なテーマが「戦争画」だ。福富は幼少期に第二次世界大戦を体験しており、戦争を主題とした絵画を熱心に収集したという。戦争画コレクションのうち、約100点は没後、東京都現代美術館へと寄贈されたが、「戦争画の周辺」作品はいまも福富コレクションに残されている。会場では、制作直後にアメリカに渡ったものの、福富が1990年にクリスティーズで落札した満谷国四郎の《軍人の妻》(1904)のほか、宮本三郎、向井潤吉、藤田嗣治といった作家の作品が並ぶ。 

展示風景より、右は満谷国四郎《軍人の妻》(1904)

 監修の山下裕二は「福富は世間の評価とは関係なく自分の目で選んでいる」と、このコレクションを評価する。洋画黎明期から第二次世界大戦に至る時代を映す油彩画までおよそ80余点を通し、福富太郎の「眼」を追ってみてほしい。

展示風景より
展示風景より