明治から大正にかけて活動し、繊細な花鳥画などが海外で高い評価を得たものの、次第に中央画壇から離れて市井の画家を貫き、没後は知る人ぞ知る存在となった渡辺省亭(1851〜1918)。その国内の美術館では初となる回顧展「渡辺省亭-欧米を魅了した花鳥画-」が上野の東京藝術大学大学美術館で始まった。会期は5月23日まで。
幕末に江戸・神田に生まれた省亭は、生涯を浅草周辺で暮らした画家。だがそのローカル性のいっぽうで、日本画家としてはもっとも早い1878年にパリ万博に際して渡欧。また明治25年から29年までの間に、ロンドンのギャラリーで個展や二人展が4回開催されてるほか、メトロポリタン美術館やクラーク美術館、ボストン美術館、フリーア美術館、大英博物館、V&A、アムステルダム国立美術館など、欧米の名だたる美術館にも作品が所蔵されているなど、世界とのつながりも省亭を特徴づけるポイントだ。
こうした欧米での高い評価は、省亭の画風とも関係する。省亭の特徴は、日本的な情緒を重んじる美意識と西洋的な写実の融合。東京藝大大学美術館准教授・古田亮は図録のなかでこう指摘している。「浮世絵や琳派のような日本的要素を前提としながらも、それだけでなく、徹底した写生に基づく生動を表していることが特徴として挙げられる。そうした特徴は、ジャポニスムに沸く西洋の人々にはひときわ魅力的に感じられたことだろう」。
本展では、こうした四季折々の花鳥画を12幅の連作にまとめた大作《十二ヶ月花鳥図》(展示期間は4月27日〜5月23日)をはじめ、精緻な表現で生き生きとした動物を描いた作品を多数展示。
1878年に、ドガの目の前で描かれ贈られた《鳥図(枝にとまる鳥)》(1878)や、省亭が下絵を描き、濤川惣助が七宝額絵として制作した《荒磯鶚図額》など貴重な作品も並ぶ。
また会場には、国宝・迎賓館赤坂離宮の「花鳥の間」を華やかに彩る渡辺省亭・濤川惣助の共作による七宝額絵の原画も展示。この機会に、多彩な画業を振り返りたい。