2012年の原美術館の回顧展以来、8年ぶりとなるジャン=ミシェル・オトニエルの個展「《夢路》DREAM ROAD」が、六本木・ペロタン東京で開幕した(〜10月24日)。
1980年代後半からドローイング、彫刻作品、インスタレーション、写真、執筆、パフォーマンスに至るまで多彩な表現方法で創作活動を行ってきたオトニエル。詩的で繊細な素材を好み、90年代初頭から蝋や硫黄を用いて制作、その後ガラスを用いた作品を多く制作してきた。
本展は当初、3月に開催予定だったが、新型コロナウイルスの影響によって延期。本人も来日を切望していたが、叶わないまま展覧会の開幕となった。
「夢路」と題された本展に並ぶのは、オトニエルらしいガラス作品の数々だ。これらは日本の菊の花から着想された新作シリーズで、「Kiku」と名付けられた。
オトニエルは幼少期から花に親しんできたといい、美術史上で花が持つ意味にも興味があるのだと語ってくれた。昨年、オトニエルはルーヴル美術館でバラをモチーフにした作品を発表したが、これも花への強い興味ゆえだ。
1992年の初来日以来、日本庭園にも興味を持ち続けてきたオトニエルは、来日のたびに「菊まつり」を訪れていたのだという。「菊はその造形美が好きなのです。そして栽培にかける職人の技術力の高さにも興味がある。菊まつりは、まるでミニマリズムのインスタレーションのようです」と評価する。そうした菊に対する印象と自分の作風を融合させた結果が、本展のシリーズとして結実しているのだと語っている。
「Kiku」シリーズは菊の花の形状を抽象化したものであり、色も菊の花に着想を得た。作品は一筆書きのようにガラスピースがつながっており、覗き込めば鑑賞者や周囲の風景とともに、その作品自体をも映し出す。「永遠が重要なコンセプトなのです。この形状は、エネルギーが終わることなく続いていくことを意味しています」。
加えて、菊の花が持つ意味も重要だとオトニエルは語る。「菊は長寿を願う花。このシリーズは6~7年前から構想してきたものですが、新型コロナのパンデミックが起きているいま発表することに、大きな意味を感じています」。
「夢路」という展覧会名も菊まつりで見た菊の名前から付けられたものであり、「ともに希望に向けて歩んでいこう」という前向きな思いが込められている。
オトニエルはこのコロナ禍について、「アーティストとして、新しい世界観を伝え、希望を伝えるということは昔から考えていた」としつつ、次のようなメッセージを投げかける。「アートで喜びを共有する機会が減っています。だからこそ、つながりをより強くしていかなくてはなりません。新作シリーズのサイズは小さいですが、だからこそ鑑賞者は作品とより親密な関係を築くことができる。それはこのコロナ時代ならでは。今回の展覧会はいままでの自分にないようなインスタレーションになっているので、ぜひ楽しんでほしいです」。
立体だけでなく、ドローイングやペインティングなども並ぶ本展。オトニエルが見出した菊の花の美しさと希望を、作品のなかに見出してほしい。