文化発信地を結ぶデジタルプラットフォーム
金融情報サービスの大手、ブルームバーグL・P・の収益を原資とし、2006年に設立された慈善団体ブルームバーグ・フィランソロピーズ (Bloomberg Philanthropies)。その活動の一環として誕生したデジタルプラットフォーム「ブルームバーグ・コネクツ」は、無料アプリケーションを通して、世界各国の美術館や文化施設のガイドを提供している。現在は世界中で1500以上の提携パートナーをもち、ユーザー数は800万人を超える規模に成長。日本国内でも約40の文化施設がこのネットワークに加わっており、首都圏に限らず地方の施設も続々と名を連ねている。最近では佐賀県文化課の主導により県内の複数施設が加入したほか、香川県の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館も参加に向けて準備を進めるなど、国内の文化発地を結ぶデジタルネットワークが構築されつつある。
北海道・東北エリアにおける同アプリの導入において、先駆的な動きを見せたのが弘前れんが倉庫美術館だ。現在、同館では「風間サチコ展:方丈ルームの1000里眼」(6月5日〜11月15日)が開催されている。この展示空間の中で実際にアプリを起動させ、その機能性と利便性を検証した。
弘前れんが倉庫美術館における実践とアプリの機能性
アプリの設計はきわめてシンプルであり、ユーザーの鑑賞体験を最優先に考えた配慮がなされている。まず、手元のスマートフォンやタブレットなどにアプリをダウンロードするだけで、アプリ内のすべての情報に誰もが無料でアクセス可能。自身のデバイスとイヤホン(ヘッドホン)を使用するため、受付で音声ガイドを借りる手間や追加の費用はかからない。また、会場内の作品の側に設置されたQRコードを読み込むと、アプリを事前にインストールしていなくても、その場で即座に音声ガイドを聞くことができる。


国内初の試みとして、本展では「作家本人によるインタビュー動画」が導入されており、展示されているほぼすべての作品について、風間自身が解説を寄せている。キュレーターや展覧会の広報担当者がガイドを担うケースもあるなかで、作品を目の前にしながら、作家自身の声や考えに直接ふれることができるのだ。制作の動機や、アイデアの源泉などが「生の言葉」で語られることで、作品の見え方はより多角的に変化していく。本来であれば一度きりのトークイベントなどでしか聞けない貴重な話が、いつでも再生可能なアーカイブとして手元に残る意味は大きい。
グループで移動するギャラリーツアーとは異なり、気になった作品の解説を「自分のペース」で深掘りできるのも嬉しい。例えば音声を聞くのが難しい状況や、文字で情報を得たい場合のために、アプリ内には「書き起こしテキスト」が用意されている。さらに利用者のデバイス設定に合わせて自動翻訳機能がその場で適用されるため、現地語の解説を、自国語へと翻訳して読むことができる。同館館長の木村絵理子は、「海外からの来館者数が非常に増えているが、自館だけでは日英での対応が限界だったため、自動翻訳による50以上の言語への対応は大きな魅力となった」と語る。単一の館だけでは予算やリソースの面から着手しきれなかった多言語化の壁が解消され、文化施設が抱える発信力の格差が埋まりつつある好例と言える。
アプリの真価は会場内だけにとどまらない。鑑賞時間が足りず会場を後にした後でも、作家本人の声や詳細な解説にふれ直すことができる。加えて、コレクションについてもつねに詳細な情報や解説が公開されており、それらのコンテンツが段階的に蓄積・集約されていくことで、過去の展示内容を含めた質の高いデジタルアーカイブとして、いつでもアクセス可能な利便性を備えている。
会場の混雑や時間の制約、言語の壁といった制約に縛られることなく、自身のペースで深い知見にアクセスできる環境を完全無料で提供しているブルームバーグ・コネクツ。ひとつのプラットフォームがハブとなり、世界中の文化施設と個人の好奇心をダイレクトにつなぐこのアプリは、国内外の多様な施設へ気軽にアクセスし、自身の鑑賞体験を広げる大きな助けとなるはずだ。























