光州ビエンナーレ日本パビリオン、2作家が伝える歴史を紡ぐ重要性【3/4ページ】

 内海は映像の概念をベースに、風景を再構築し、時間の連続性を表出させるインスタレーションや映像などを制作してきた。「大地の芸術祭」(新潟)の会場に常設されている《たくさんの失われた窓のために》は代表作のひとつだ。

 内海のインスタレーション《The sounds ringing here now will echo sometime, somewhere》が展示されているのは、ホテル「Culture Hotel LAAM」の1階に位置する広大なホワイトキューブ。薄暗く、ひんやりとした空間には、100本を超える異なる長さの金属棒が天井から吊るされ、ゆっくりと動く。その棒同士が当たることでわずかな音が発生し、連鎖を生み出す。

内海昭子 The sounds ringing here now will echo sometime, somewhere 2024 
撮影=山中慎太郎(Qsyum!)

 内海にとって、「音」を使った作品は今回が初めて。そのきっかけは、韓国にある「戦争と女性の人権博物館」に訪れたことだったという。慰安婦をはじめとする歴史を伝える博物館に流れる、「水曜デモ」(日本軍『慰安婦』問題解決全国行動)の賑やかな音楽。内海は、音を鳴らして王に直訴をするという韓国の伝統的な風習をそこに見出し、日本と韓国の長い歴史の因果を踏まえつつ、「音」と「連鎖」に焦点を当てた本作を生み出した。

 一つひとつは小さな音であっても、それが連鎖すれば良きにしろ悪きにしろ大きな存在となる。歴史に刻まれるのは、そうした大きな声だ。しかしいっぽうで、小さな音さえ出すことができない状況も世界には存在する。内海の作品は、政治性を内部に織り込みながらも、静かに世界の状況を私たちの心に響かせる。

内海昭子 The sounds ringing here now will echo sometime, somewhere 2024 
撮影=山中慎太郎(Qsyum!)

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