韓国の民主化プロセスに多大な影響を与えた光州広域市で、第14回光州ビエンナーレが7月9日まで開催されている。
アジアを代表する現代美術の国際展として知られており、1995年から2年に1度開催されている光州ビエンナーレ。今年は「soft and weak like water(天下水より柔弱なるは莫し)」をテーマに、79名/組のアーティストの作品を光州ビエンナーレホール、国立光州博物館、ホランガシー・アートポリゴン、無覚寺(ムガクサ)、アートスペース・ハウスの5会場で展開している。
このテーマは、中国春秋時代の思想家・老子による『道徳経』から引用したもの。今回のアーティスティック・ディレクターを務めるイ・スキョンはステートメントで、「水のように柔らかく弱いものは、即効性ではなく、持久力と浸透する優しさによって変化をもたらし、構造的な分裂や違いを超えて流れる」ものだとしつつ、「このテーマは、個人と集団に深く浸透し、複雑な世界を意識と方向性を持ってナビゲートできるアートの能力を強調している」と説明している。
今回のビエンナーレでは、水の変革的かつ修復的な可能性のある特性をもとに、抵抗、連帯、包括性、脱植民地化、エコロジー、環境など力強いメッセージを提示した作品を展示。本レポートでは、メイン会場である光州ビエンナーレホールを中心に紹介したい。
光州ビエンナーレホールでの展示は、序章を含めた5章構成。各章を通じて、感情や心理から社会、政治に至るまで、あらゆる人間の体験に働く微妙な底流や無形の力を探ろうというものだ。
序章「Encounter」では、南アフリカ出身のアーティスト、ブシュレベジェ・シワニによるインスタレーション《The Spirits Descended (Yehla Moya)》(2022)が会場の1階全体を使って展示されている。南部アフリカのシオン教会の信者が野外礼拝の際に身につけるベルトをイメージしたロープや、水上での癒しの儀式のようなパフォーマンスを記録した映像からならインスタレーションでは、人類と自然の関係を探り、土地が人間に与えるヒーリングの力を確かめさせる。
第1章「Luminous Halo」では、多様な形式の抵抗と連帯に焦点を当てている。マレーシアのアーティスト、ミュージシャン、社会活動家の集団であるパンクロック・スゥラップは、韓国の木版画運動の歴史と民主主義との関連について調査を行い、「光州事件」に関連した集団的な抵抗、連帯、追悼の瞬間を描いた一連の木版画を発表。
展示室中央にあるオム・ジョンスンのインスタレーション《Elephant without Trunk》(2023)は、約600年前にインドネシアから日本を経て、朝鮮半島の南端に位置する島にたどり着いた象の旅路をたどったもの。その旅の途中の都市に住む視覚障害のある学生たちが制作した象の彫刻をもとに、オムはスチールパイプやパッチワークで拡大し再解釈し、正常な領域からしばしば排除され、不可視化される存在を表現している。