現代芸術振興財団が主催する、プロフェッショナルなアーティストを対象としたアートアワード「CAFAA賞」。そのグランプリに金沢寿美が選ばれた。
「CAFAA賞2020」のファイナリストにはAKI INOMATA、金沢寿美、 田口行弘の3名が選出。6月から7月にかけて東京・六本木のピラミデビルにて各作家の個展が開催され、展示を踏まえたうえで最終選考を実施した。グランプリに選ばれた金沢には、賞金300万円と、英・デルフィナ財団への3ヶ月間の滞在制作の機会が授与される。
金沢は1979年兵庫県生まれの韓国籍。2005年京都精華大学大学院芸術研究科修士課程修了。現在は東京を拠点に制作活動を行っており、これまで日本と韓国の企画展やレジンデンスプログラムで作品を多数発表してきた。近年のおもな展覧会に「消して、みる。」(遊工房アートスペース、東京、2018)など個展の他、「Artist in FAS 2018」 (藤沢市アートスペース、神奈川、2018)、「Beyond The Sun」(Icheon Art Platform、韓国、2019)など。
今回の最終選考で金沢は、新聞紙の一部を残して鉛筆で黒く塗りつぶし、それをつなぎ合わせた大型インスタレーション《新聞紙のドローイング》を発表。無数の星が浮かび上がる宇宙のような空間で、世の中に氾濫する情報についてを改めて考える展示をつくりあげた。
受賞した金沢は次のようにコメントを発表している。
子供が寝た後、白熱灯が光る狭い居間で、この作品を制作してきました。数日後、数か月後、数年後には消え入ってしまいそうな言葉やイメージに小さな光を当てながら、あるいはまだ見ぬ銀河を思い浮かべるように、静かな時間を楽しんできました。今回の賞をいただけたことで、これまで続けてきた自分の制作に光が射したような思いです。ロンドンのレジデンスでは、様々なルーツ、社会的背景を持った英知に富むアーティストとの出会いや、多様性のある社会で自分が何を得てどう変化するのか、と考えるといまから心が弾みます。このような機会をいただき、感謝申し上げます。
審査員を務めたのは、片岡真実(森美術館館長)、ウンジー・ジュー(サンフランシスコ近代美術館コンテンポラリー・アート・キュレーター)、アーロン・セザー(デルフィナ財団ファウンディング・ディレクター)の3名。
片岡は次のように審査総評を語っている。
ファイナリストの3名はいずれも独自の世界観を、コロナ禍という条件下で示唆に富んだ展示にまとめあげており、困難な選考となった。INOMATAは人間以外の生物と人間、機械を等価に置いて近代以降の美術における著作者の概念を問い、金沢はライフワークとも言える『新聞紙のドローイング』シリーズでこの間に社会に向けられた情報の可変性を星座のように描いた。田口は、美術に限らず他者と共同で時代を生き抜くことの意味を、インスピレーションを視覚化したドローイングと仮設の小屋を建てるプロジェクトで提示した。選考ではそれぞれがロンドンで3ヶ月を過ごすことで何を得るかが議論の焦点となり、ともすれば自己との対峙が続く制作過程となる金沢が、多様な文化的背景を持つ他者との出会いによって、アーティストとして大きく飛躍することを期待してアワードを授与することとなった。