現代芸術振興財団(会長:前澤友作)が主催するアートアワード「CAFAA賞」は、現代芸術にかかわるアーティストを対象に、次世代の柱となる才能あるアーティストを選抜する賞だ。「CAFAA賞2020」の公募には300件を超える応募があり、書類選考により、同アワードのファイナリストとしてAKI INOMATA、金沢寿美、 田口行弘の3名が選ばれた。ファイナリストにはそれぞれ制作費50万円が支給され、都内で開催される個展に向けて作品を制作。6月1日より東京・六本木のピラミデビル4階にて開催される各作家の個展を経たのち、最終選考にてグランプリ1名が選ばれる。
ファイナリストのひとりである田口行弘は、ドイツ・ベルリンを拠点に世界各地で制作を行ってきた。その土地に存在するものと使った立体物に、ドローイングやパフォーマンス、ストップモーション・アニメーションなど様々な表現を組み合わせた「パフォーマティブ・インスタレーション」で注目されているアーティストだ。田口は個展会場での最終選考で、これまで制作してきた作品をベースにした作品を発表する。
ベルリンでの活動
──田口さんはベルリンで活動をされているのですね。
ベルリンを活動拠点に据えてかれこれ15年になります。学生時代より、アーティストとして活動するならば海外がいいと漠然と考えてました。学校が休みの時期には海外の作家のワークショップに参加するなどして、様々な国を訪れていたのですが、そのなかでもベルリンがしっくりきた。現在とは若干状況は異なっていますが、元工場だった広いスペースをアーティスト同士で安く借りて展覧会やイベントを行っているなどを見聞きしていて、この場所だったら自分もアーティスト活動がしやすそうだと感じ、大学を卒業してすぐにドイツへ渡りました。
──卒業後にいきなり渡独とは。思い切った印象です。
いまでこそ、日本には様々なアートスペースがあり、多様なイベントが開催されるようになりましたが、15年前の日本は20代前半の若手アーティストがスペースを借りて、大きなイベントを企画するというのが非常に難しい状況だったんですね。何かアクションを起こそうと思っても、コンパクトな貸画廊を借りて展覧会を行うくらい。積極的に制作し、展覧会をやっていきたいと考えると、日本の状況にいるのは難しいなと思って。居心地もよく、友人もできて気がついたら15年という感です。
──田口さんの作品は、ドローイングや映像、インスタレーションが混ざりあっていますが、どのようにして生み出されるのでしょうか?
その土地にあるものやことと密接に関わり合った作品が多いです。現地に赴いて、その土地で見つけたものや素材をきっかけにアイデアをふくらませたり、先にアイデアがあってそれを現地の素材と組み合わせたりと、そのときによって制作方法は変わっています。学生のころからインスタレーションとパフォーマンスを組み合わせるスタイルを続けています。
──そのなかでも、ストップモーションの映像が非常に印象的です。
ある意味で偶然できあがったものです。その土地の空間や状況に合わせたインスタレーション作品は展示期間が終わってしまうと消えてしまうものが多いです。ですから、記録することがとても大切だと感じていて、スチール写真で記録していたんですが、インスタレーション作品としては納得の行く配置でも、写真の構図を考えると「この木はちょっと右がいいな」とか、修正したくなってくる。それで、作品の配置を少し移動させて撮影を繰り返していました。この写真を連続で一気にプレビューしていたら、コマ撮りアニメのようにガチャガチャ動いていて、非常に面白く感じたんです。
──作品内の映像作品はそのような成り立ちがあったのですね。
そこで、展示期間中にどんどん変化していくインスタレーションがあってもいいんじゃないかって思いたちまして。映像を本格的につくり始めたのはそこからです。
CAFAAの最終選考に向けて
──田口さんが今回CAFAAの個展で展示する作品について教えてください。
2013年から14年にかけて、ベルリンの空き地に小屋を建てたプロジェクト《Discuvry》のドキュメント映像を中心に、過去の作品を組み合わせたものになります。当時、ベルリンのはずれに広大な空き地がありまして、そこに街中から廃材などを集めて、パートナーで建築を学んでいたキアラとともに小屋をつくった。すると、小屋の周りに自然といろいろな人達が集まってきて、呼びかけたわけでもないのに勝手に家を立て始め、最終的には30軒くらい小屋が並んで、コミューン化していったんですよね。とはいえ、電気も水道もない土地で、ゴミや排水などの問題も出てくるので、最終的には強制退去となってしまったのですが。
──田口さんたちのつくった小屋が求心力を持っていたんですね。
いわゆるスクワット(公有地を不法占拠する)ではあるのですが、スタンダードなスクワットは使われなくなった建物に住み着いて活動するいっぽう、自分たちのように空き地に住み込み、きちんとした構造を持つ建物をつくっちゃうっていうのは珍しかったようです。なので、家を建てていたらクリエイティブ系の方が興味を持ったようで、「僕も同じようなものをつくりたい」と言われたり。気がついたら周辺、10メートルくらいの界隈なのですが、ポコポコポコって一瞬で家が建ち始めた。
──強制退去となってしまいましたが、その家が現在も残されているのですよね。
強制退去の前後、別のプロジェクトを進めていたのですが、そこのキュレーターが「あなた達の家を残したいなら国や組織と交渉するよ」と言ってくれて。それで家が奇跡的に残り、分割してコンテナで保管できることになったんです。今回の展覧会には持っていけなかったのですが、以前はデンマークの美術館や金沢21世紀美術館で展示もしています。
──生き残った家が世界各国をめぐっているのもすばらしいですね。
本当にラッキーでした。今回の展示では、家を建ててから退去するまでの約1年半の映像と、金沢とデンマークでは現地の素材でも家をつくりましたので、そのときの写真、そして2013年から現在までのスケッチを展示します。スケッチは、家に関連しているものがすべてではないのですが、その当時のアイデアやひらめきをアウトプットしたもの。集合無意識的なつながりを感じてもらいたいと考えています。加えて、現在ドイツの別の場所で進行中のプロジェクトの模様をリアルタイムで配信する予定です。
──ライブ配信も行うということですか?
湖のほとりで家を建てるプロジェクトがありまして、今年の4月から制作しています。今回、日本の展示も立ち会いたかったのですが、入出国前後の待機期間を考えるとスケジュールが非常に厳しくて……。であれば、こちらで活動している模様をそのままライブ配信で流せないかな?と計画しています。日本とドイツは7時間の時差がありますから、自分が朝早くカメラの前に立てば、夕方にギャラリーにいらっしゃるみなさまには見てもらえると思います。ドイツと日本の会場を共有できるといいなって。
──コロナ禍で物理的な移動は制約がありますが、技術を使えば、いろいろな方法でつながりあえるんですね。
自分の早起き次第なところもあるんですけれどね。ベルリンと東京との展覧会空間をつなげて、たくさんの時間を日本の会場と共有できればいいかなと。日によっては対話はできず、制作風景を流しっぱなしになってしまうかもしれないんですが、それも非常におもしろいと思います。自分のこれまでやってきたこと、そして現在進行系で行っていることを同時に見てもらえる空間をつくっていきたいですね。