「Tokyo Gendai 2025」開幕レポート。厳しい市場だからこそ試される「支え合いの精神」【3/3ページ】

 海外ギャラリーでは、Sadie Coles HQやShanghARTが販売を報告するいっぽう、新規顧客の開拓に苦戦する声も聞かれた。今回初出展したロンドンのMandy Zhang Artは、ロンドンを拠点とするシリア・カ・トゥンの個展を構成。フォークロアやフェミニズム神話を題材にしたソフトスカルプチャーを展示し、初日に既存顧客へ2000〜6000ポンドの3点を販売した。オーナーのマンディ・チャンは「新しい顧客を獲得するのは簡単ではない。多くの関心や長い会話はあるが、日本のコレクターはシャイで、連絡先を残したがらない傾向がある」と話す。

Mandy Zhang Artのブース

 今年初出展となったBANKは、日本在住の中国人アーティスト、ルー・ヤンによる「DOKU」シリーズ最新映像作品や、東京出身で台湾にルーツを持つマイケル・リンの絵画などを紹介した。ギャラリーの関係者は「日本の観客に関心を持ってもらえそうな作品を精選した」と語りつつ、「海外ギャラリーだと入りづらいと感じて躊躇される方もいるが、日本語を話せるスタッフが声をかけると安心して来てもらえる」と手応えを述べた。実際に問い合わせは、日本で知名度のある作家に集中しているという。

BANKのブース

 いっぽう、アフリカ現代美術を専門に扱うspace Unは、カメルーン出身のバルトロメイ・トグオやセネガル出身のアリウ・ディアック、ナタリー・ヴェラックの作品を展示した。トグオはMoMAやポンピドゥー・センターなど国際的美術館に収蔵されている作家だが、ディレクターの中谷尚生は「多くの人が関心を示すものの、購入に踏み切る段階には至っていない。日本の観客は彼の作品にまだ馴染みが薄い。むしろ国際的な来場者は日本の作家を見ることに関心を持っている」と指摘した。

space Unのブース

 昨年に続き参加したバンクーバーのUnit 17は、地元作家ダグラス・ワットのインスタレーションを展示。創設者のトービン・ギブソンは「作品はアメリカや韓国の顧客によってホールドされている。必ずしもフェアでセールスが成立するわけではないが、むしろ“きっかけ”となる」と説明する。さらに「私は都市としても参加したいと思えるフェアを選んでいる。時間をかけて文脈を見直し、市場に広げられるのかを判断する必要がある」とも語った。またカナダでは政府の文化支援が厚く、「販売に追われず、美術館やキュレーター、批評家との批判的対話に注力できる」と現地の事情を明かした。

Unit 17のブース

 市場全体に目を向けると、Art BaselとUBSによる「Global Art Market Report 2025」によれば、昨年はアジア主要市場で中国が31パーセント、韓国が15パーセント縮小するいっぽう、日本は2パーセントの成長を示した。Tokyo Gendai共同創設者のマグナス・レンフリューは「アジアの市場はここ15年で大きく変わったとはいえ、まだ表層をなぞった段階にすぎない」と、これからの可能性に期待を述べた。さらに「困難な状況にあっても柔軟な姿勢が必要であり、いまこそ美術館やほかのフェアとの協力を通じて支え合う精神が求められている。そして同時に、コレクターも画廊やアーティストを支える責任を負っている」と強調した。

 市場環境が厳しさを増すなか、Tokyo Gendaiがいかに国際的なネットワークを強化し、アジアのアートシーンにおける拠点としての存在感を築いていくのか、今後の展開が注目される。

会場風景より
会場風景より
会場風景より

編集部