第2回の「Tokyo Gendai」が、横浜国際平和会議場(パシフィコ横浜)で開幕した。会期は7月7日まで。
今年のフェアには、世界18の国や地域から69のギャラリーが参加。BLUMやSadie Coles HQ、アルミン ・レッシュ、ペロタンなどの国際的なギャラリーが再び参加するほか、今月、麻布台ヒルズにオープンしたPaceギャラリーをはじめ、ベルリンとライプツィヒに拠点を持つGalerie EIGEN + ARTやロンドンのAlison Jacques、香港のクワイ・フォン・ヒンなどがデビューを果たした。
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Tokyo Gendaiの共同設立者であるマグナス・レンフリューは開幕前の記者会見で、同フェアの開催にあたりプリンシパルパートナー・SMBCグループや観光庁、文化庁、日本のアートシーンからの支援に感謝を述べつつ、「Tokyo Gendaiが日本のアートシーンを促進し、世界クラスのアーティストやギャラリーを日本に紹介する役割を果たせることに、皆さんが非常に興奮している」と話した。
「私たちの主要な目的のひとつは、日本の現代アートの観客を拡大すること。現代アートに対する恐怖感を和らげる手助けをしたい。このようなかたちでアートフェアに来て、アートを観る機会を持つことで、人々がいままで関わったことのない作品と触れ合う機会が提供されると考えている」(レンフリュー)。
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4日の午後2時にVIPプレビューが始まるやいなや、展示会場には多くの来場者が押し寄せた。ロバート・ロンゴの個展を開催するPaceのブースには多くの人が集まり、初日に半数以上の作品が会場で販売され、その多くは日本国内のコレクターによって購入されたという。ギャラリー副社長の服部今日子は、「今回はプリセールをできるだけ行わなかった」と強調しつつ、「お客様がかなり購買意欲を持って来られている。実際、作品も非常に良い感じで売れており、予想以上の成果を上げている」と述べている。
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しかし、Pace以外の多くのギャラリーは、初日の売れ行きは芳しくなかったようだ。今年設立30周年を迎えたBLUMは、岡﨑乾二郎の大作絵画(16万ドル)やハ・ジョンヒョンの絵画(25万ドル)などの高額作品を含む7〜8点の作品をプリセールで販売したにもかかわらず、代表のティム・ブラムは初日の終わり、美術手帖に送ったメールで次のようなコメントを寄せている。
「比較的多くの来場者があったにもかかわらず、売り上げはかなり厳しい。ここ5年から10年で日本のアートマーケットは劇的に変化したが、まだまだやるべきことはたくさんある。フェアの開催時期は、アメリカの7月4日の祝日を抜きにしても、非常に複雑で難しい。非常に忙しいシーズンの後の真夏であることを考えると、本質的に問題がある。このフェアを成長させるためには、アジアの地域コミュニティーにもっと働きかけをする必要がある」。
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アルミン・レッシュでは、トム・ウェッセルマンやヴィヴィアン・スプリングフォード、オリバー・ビアー、ロビ・ドウィ・アントノなどの作品を展示。価格帯は2万〜40万ドル。同ギャラリーのファニー・ユー(ギャラリーアソシエイト、コミュニケーション&セールス)は、「初日にいくつかの作品が売れたが、ほかの作品はまだ交渉中だ」と述べた。
今年11月、東京・銀座に日本初の展示スペースをオープンするフランスのギャラリーCeysson & Bénétièreは、韓国人アーティストであるナム・チュン・モーの個展を開催。同ギャラリーのマネージング・ディレクター、ロイック・ガリエは、昨年のTokyo Gendaiでの作品販売は主に週末に行われたため、今年の販売についてはそれほど心配していないと楽観的な見方を示した。また、プリセールができれば、アフターセールで作品が取引されるケースもあるとしている。
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作品の売れ行きが鈍い状況下、一部のギャラリーは、出展コストを補うために主要な作品を既存の顧客にプリセールで販売し、残りの作品を会場で販売することで、現地マーケットの反応を試すという戦略をとっている。米国ミルウォーキーのThe Green Galleryと共同でトレバー・シミズの個展を行うMISAKO & ROSENや、昨年末に東京・神宮前にスペースをオープンした上海のギャラリーで、中国人アーティスト・DAZHIの作品を紹介するBLANKgalleryはその一例だ。
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レンフリューは美術手帖の取材に対し、ギャラリーにとって作品の売上は重要だが、海外のギャラリーが同フェアに参加することで、優れた日本のアーティストを発見する機会を提供するのもTokyo Gendaiの役目のひとつだと強調している。例えば、今年の「温泉大作戦 The Final!!」にも参加した上述のThe Green Galleryは、これらの日本国内のイベントに参加することで多くの日本のアーティストと出会い、母国でも展示することができたという。ギャラリー共同設立者のジョン・リーペンホフは、Tokyo Gendaiのようなイベントは「新しい文化を見つけて米国に持ち込むための貴重なリソースとなっている」と話している。
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また、昨年と今年のTokyo Gendaiのほか、2022年に京都のアートフェア「Art Collaboration Kyoto」にも参加したロンドンのSadie Coles HQは、今年6月のアート・バーゼルで西村有の作品を紹介した。今後はロンドンのギャラリーでも日本人アーティストの作品を紹介する予定だという。「今後、アートフェアが国際的なギャラリーと日本のアーティストのつながりを促進し、より広いプラットフォームを提供する役割を果たすことができると考えている。これは文化的に非常に意義深いことだと思う」(レンフリュー)。
日本のギャラリーによる展示も紹介したい。アートフェアで比較的販売しやすい絵画を展示する主流とは一線を画し、PARCELは陶芸家・橋本知成の立体作品を展示。ヴィクトリア&アルバート博物館やロサンゼルス・カウンティ美術館、大阪市立東洋陶磁美術館などに収蔵されている橋本の陶芸作品の表面には鉱物を連想させるような不思議な光沢があり、見る角度によってその表情も変わる。
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会場入口の横にあるシュウゴアーツのブース内に、香港出身のアーティストであるリー・キットが同フェアのためにつくったサイトスペシフィックなインスタレーションも印象的だった。人が行き来するフェアの会場で、独特の瞑想的な雰囲気が漂っている。
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日本のギャラリーのなかでは、「Tokyo Gendaiは東京のアートフェアとしての個性をもっと追求するべきだ」「東京や日本らしいおもしろさ、これまで気づかなかったアート、そして大きなフェアで見過ごしてしまうようなアートを探し出し、提供する仕組みにした方が面白いだろう」「アジア地域からもっとコレクターを招致したい」というような声も聞こえた。また、歴史的な円安が続くなか、ドル建ての出展料や、高額な壁面工事費や照明などのコスト高により、同フェアは「出展コストのもっとも高いアートフェアのひとつ」とも言われている。
レンフリューは、「アートフェアのモデルは確立されたものであり、それが機能しているので、大幅な改革が難しい」としつつ、「重要なのは、マーケットに最適なかたちで運営し、その文脈に敬意を払うこと。そして、日本のギャラリーとアーティストに強力な存在感を持たせることだ」と話す。
Tokyo Gendaiはまだ多くの課題に直面しているかもしれないが、参加ギャラリーの多くが指摘しているように、国際的なフェアの開催により、東京のアートシーンはより良い方向に変貌を遂げつつある。フェア、ギャラリー、行政などが力を合わせれば、東京がアジアの新たなアートハブになる日が来るのがそう遠くはないかもしれない。
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