昨年4月、惜しまれつつ解体された黒川紀章(1934〜2007)設計の「中銀カプセルタワービル」。そのカプセルの一部が再生され、和歌山県立近代美術館に到着・展示されている。
中銀カプセルタワービルは1972年に竣工した黒川紀章の代表作のひとつ。新陳代謝する建築=メタボリズム運動において当時最若手の建築家として活躍した黒川のマスターピースだ。建物は約10平米のスペースに人間が生活する最小限の機能を詰め込んだ「カプセル」140個から構成されており、カプセルは取り外しや移動・交換が可能という、まさに「新陳代謝する建築」だった。しかしながらそれらのカプセルは一度も交換されることがないまま50年が経過。老朽化のうえ、新型コロナウイルスのパンデミックが追い打ちとなり、惜しまれつつ解体された。
その後、オーナーと住人を中心メンバーとする「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」によりカプセル23個が救出され、黒川紀章建築都市設計事務所監修のもと、保存再生が実施。できるだけオリジナルに近いかたちに再生された展示用が14個、そのほかの活用が可能なスケルトンタイプが9個となっており、和歌山県立近代美術館にはそのうちのひとつである展示用カプセル「A908」が8月24日に到着した。
和歌山県立近代美術館・博物館は1994年竣工の黒川紀章作品であり、黒川紀章の原点とも言えるカプセルが展示される美術館としてはうってつけだ。同館学芸課長の井上芳子によると、今回のカプセルは現在「寄託」であり、展示期間は数年にわたる予定だという。今後はカプセルの内部公開や展覧会で活用していく考えで、「本格的な収蔵に向けて努力したい」としている。
同カプセルについてはすでにサンフランシスコ近代美術館がカプセルの取得を発表している。国内では同じく黒川紀章設計の埼玉県立近代美術館にモデルルームとしてつくられたプロトタイプが設置されているが、実際に使用されたカプセルが国内美術館で収蔵された事例はまだない。この展示をきかっけに、和歌山県立近代美術館が終の住処となることが期待される。