2年に1度開催される「東京ビエンナーレ」は、東京というまちの歴史と営みに深く入り込み、地域住民とともにつくり上げる国際芸術祭。第2回となる「東京ビエンナーレ2023」は、千代田区、中央区、文京区、台東区の4区にまたがるエリアを舞台に、作品が生みだされる現場や過程に参加できる夏会期(7~9月)と、作品展示が行われる秋会期(9月23日~11月5日)に分かれて展開される。
総合ディレクターに中村政人と西原珉を迎えた今回のテーマは、「リンケージ つながりをつくる」。人間関係のみならず、場所、時間、生物、植物、できごと、モノ、記憶、情報など、あらゆるものが複雑に絡み合って存在する事象を「関係性=つながり」をとらえ、これらに希望を見出す試みになるという。
本記事では、この夏会期から「つながりをつくる」ことができる注目プロジェクトをピックアップして紹介する。
無印良品やパルコの広告を⼿掛け、昨年⽂化功労賞を受賞した⼩池⼀⼦がクリエイティブディレクターを務める「ジュエリーと街 ラーニング」は、「ジュエリー」の再発見・再創造をめざすプロジェクト。御徒町から外神田の街並みにある専門店の職人を訪ね、古い装身具をコンテンポラリー・アクセサリーにつくりかえ、秋会期に展示。参加者は、貴金属や宝石の多様性を学ぶことができるという。
中村政人が参画し、神田小川町にあったオーダーワイシャツ専門「顔のYシャツ」の価値を社会的に保存するプロジェクト「わたしたちは顔のYシャツ」にも注目。1920年に創業し、2020 年初頃に惜しまれつつ閉店した同店の看板に見られる「顔」をモチーフに、絵画、写真、映像などを制作。さらに、その建築に関しても歴史的な意義を再確認できるような活動が予定されている。
関東大震災後の復興期に建てられた神田の看板建築・海老原商店を拠点に展開される「パブローブ:100年分の服」は、誰もが利用できる公共のワードローブをつくりだすプロジェクト。パブローブとは、「パブリック」と「ワードローブ」を組み合わせた造語だ。
アーティストの西尾美也がナイロビのマーケットから着想を得て始まった本プロジェクトでは、関東大震災から現在までの100年間に着られた服を募集し、服の貸出、服のレプリカ制作、イベント等を実施。服の図書館をつくりだし、人々が生きてきた100年分の時間・生活文化をこれからの東京へとつなげていくという。
秋会期でAR展示等を予定している「Not Lost Tokyo」は、東京の失われていく建物を3Dデータ化し、この「建造物DNA」をもとに未来に向けた新たな価値を探る実験的なプロジェクト。今回は、「生命の原理に基づき、社会の変化や人口の成長に合わせて有機的に成長すること」を思想に掲げたメタボリズム建築を中軸に据えている。
夏会期には、2022年に惜しまれつつ解体された代表的なメタボリズム建築である中銀カプセルタワービルの精細な3Dデータをもとに、その創造的な活用法について考えるワークショップを実施。この学びをもとに、秋会期には、展覧会の実施、AR展示、VR空間でのイベント、ウェブサイトでの発表などが計画されている。
日常生活と切り離せない「ゴミ」の分別への着目から始まった「超分別ゴミ箱2023」には、メディア・アーティストの藤幡正樹らが参加。再使用・再生利用の重要性が高いプラスチックという素材に焦点を絞り、ワークショップや展示という形態で交流と表現を行う。
以上に挙げたプロジェクトのほかにも、「東京」に積み重なる豊かな歴史や文化を編み直す多彩なアートプロジェクトが実施される「東京ビエンナーレ 2023」は、アートという自由な視点から見いだされた多様な「つながり」を再発見する芸術祭となるだろう。