東京でビエンナーレが行われていたのは戦後の復興期から。1952年から90年までの18回にわたり、上野の東京都美術館を会場に行われてきた。とくに、その第10回展「人間と物質」は企画構成のすべてをコミッショナーの中原佑介が担い、国内外からもの派、アルテ・ポーヴェラ、コンセプチュアリズムの作家たち40組が参加し、後の美術史に大きな足跡を残した。
その第10回東京ビエンナーレから50年後となる2020年、東京都心の北東部を舞台に、「東京ビエンナーレ2020」が開催されようとしている。
これは、小池一子(十和田市現代美術館館長)と中村政人(アーツ千代田3331統括ディレクター)が共同代表を務める東京ビエンナーレ市民委員会が主催するものであり、行政主体ではない、民間主導の国際展であることがまずその特徴として挙げられる。委員会は社団法人東京ビエンナーレを設立し、さまざまなプロジェクトを運営管理する。
全体のテーマは「純粋 × 切実 × 逸脱」。中村はこのテーマについて、「『純粋』で『切実』な行為や表現が『逸脱』した存在となったとき、私は、そこに『芸術』としか言いようのない状態を感じる。この3つの言葉がクロスすることで生まれる概念を『東京ビエンナーレ』という新たしい構想のフレームの中へ投げかけたい」としており、「東京ビエンナーレの各プロジェクトが個々人の壁を打ち破り、膠着している東京に新たなメタボリズムを与え、『自分たちの文化』を『自分たちの場所』で創発的に組成していくこと」を目指すという。
では、具体的にはどのようなプロジェクトが考えられているのだろうか?
現時点の構想として、企画としては、ディレクターズプロジェクトを20企画、国内外のアーティストをキュレーションする共同代表キュレーションを30企画が予定されている。
ディレクターには企画ディレクターとエリアディレクターの2種類があり、企画ディレクターはそれぞれ展覧会やプロジェクトのキュレーション、コーディネートを実施。現時点で椿昇、伊藤ガビン、佐藤直樹、四方幸子、八谷和彦、宇川直宏、山崎亮、李美那などが名を連ねている(各ディレクターによる企画プレゼンテーションは、現在アーツ千代田3331で開催中の「WHY Tokyo Biennale? 東京ビエンナーレ2020構想展」で見ることができる)。
またエリアディレクターは谷根千、上野、神田、銀座などのエリアごとに分かれており、エリア情報の提供や、企画推進のためのネットワーク形成に向けた相談・紹介等の各種調整業務を行う。
上記の企画のほか、同ビエンナーレでは対象エリア内の学校を活用した学校活用プロジェクト(30企画)、連携プロジェクト・区民プロジェクト(100企画)を予定。加えて、学生が大学間の垣根を越え学び合う学環創出プロジェクトや、災害対応力向上プロジェクト、批評家を育成する国際批評空間創出プロジェクト・批評家プロジェクトも構想されている。
この壮大な計画をどこで実行するのか? こちらも構想段階だが、会場となるのは千代田区、中央区、文京区、台東区の4区にまたがるエリアで、南は銀座から北は谷根千(谷中・根津・千駄木)までが含まれている。具体的な候補地には、アーツ千代田3331をはじめ、東京国立近代美術館、東京都美術館などの展示機能を備えた施設のほか、東京大学、東京ドーム、神田明神、秋葉原電気街なども挙がっており、エリア全体を巻き込もうとする意図が読み取れる。
今後は、19年の秋にプレ企画を実施し、主催事業30件、連携事業50件、区民プロジェクト200件を展開。これを経て、本番となる2020年を迎える計画となっているが、すでにその後の「東京ビエンナーレ2022」までが計画されている。
しかし、本事業は民間主導プロジェクトであるため、6億とされる予算の確保など、実現に至るまでのクリアすべきハードルは低くないように思われる。同ビエンナーレの今後に注目していきたい。