なぜゴヤの名作は盗まれたのか? 史実に基づく映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』が22年2月公開

フランシス・ゴヤの名作《ウェリントン公爵》が1961年、展示されていたロンドン・ナショナル・ギャラリーから盗まれた。犯人は年金暮らしの老人、ケンプトン・バントン。この稀代の盗難事件を描いた映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』が22年2月25日より、TOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次公開される。

『ゴヤの名画と優しい泥棒』より ©PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020

 1961年、世界中から年間600万人以上が来訪する世界屈指の美術館「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」から、フランシスコ・デ・ゴヤの名画《ウェリントン公爵》(1812〜1814)が盗まれた。この史実に基づいた映画が、2022年2月25日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次公開される『ゴヤの名画と優しい泥棒』だ。

 《ウェリントン公爵》は初代ウェリントン公爵となったイギリスの将軍、アーサー・ウェルズリーがナポレオンのフランス軍を打ち破り、1812年8月に勝利してマドリードに入った後に描かれたもの。ナショナル・ギャラリーによると、ウェリントンは背が低かったため、ゴヤは背を高く見せようとするかのように、頭を高く上げて直立したポーズで描いているという。

 この作品はナショナル・ギャラリーが1961年、ウォルフソン財団と財務省の特別補助金の援助を得て14万ポンドで購入。いまも同館に展示されている。

 しかしながらこの名画が一時的に「誘拐」されていた時期があった。作品が購入された同年、ナショナル・ギャラリーからこの作品を盗んだのは、60歳のケンプトン・バントン。長年連れ添った妻と優しい息子とニューカッスルの小さなアパートで年金暮らしをする、ごく普通のタクシー運転手だった。

 バントンは作品を“人質”に、「絵画を返して欲しければ、年金受給者のBBCテレビの受信料を無料にせよ!」と書いた脅迫状を出す。孤独な高齢者がテレビに社会とのつながりを求めていた時代のなか、バントンは高齢者のために絵画の身代金で公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようと目論んだのだった。

 主人公ケンプトン・バントンを演じるのは、『アイリス』(01)でアカデミー賞助演男優賞を受賞、『ハリー・ポッター』や『パディントン』シリーズや、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』など多くの話題作に出演するジム・ブロードベント。長年連れ添った妻ドロシー役は、『クィーン』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したヘレン・ミレンが演じる。

 バントンは作中、自身の理念を曲げないある種偏屈な人物として描かれているが、そこに通底するのは「弱きを助ける」という信念だ。前半はコメディタッチでテンポよくストーリーが展開するが、クライマックスの法廷シーンでは、バントンの信念にフォーカスされる。

 本作は名画盗難をめぐる物語としても楽しめるが、名画で世界を救おうとしたケンプトン・バントンという人物そのものが何よりも見どころだろう。

 

編集部

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