2017年11月15日、クリスティーズ・ニューヨークのイブニングセールで競売にかけられた1枚の絵画が約510億円という美術史上最高額で落札され、世界を震撼させた。それが、レオナルド・ダ・ヴィンチが描き、最後の個人所有作品とされた《サルバドール・ムンディ》だ。
イエス・キリストを描いた肖像画で「男性版モナ・リザ」とも称される本作。「サルバトール・ムンディ」とは「救世主」を意味しており、青いローブをまとったキリストが右手で天を指さし、左手に水晶を持っている構図は多くの人が目にしたことだろう。
この絵画は落札後に購入者をめぐって様々な憶測を呼んだが、サウジアラビアの皇太子が落札したことが判明。その後、18年にはルーヴル・アブダビでの一般公開が発表されたものの、結局それは実現せず、現時点で一度も公の場には姿を見せていない。
11月26日に公開される映画『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』は、このいまだに謎を多くはらんだ《サルバドール・ムンディ》をめぐる珠玉のドキュンタリーだ。
《サルバドール・ムンディ》は一般家庭から「発見」され、当初13万円という破格の値段で市場へと姿を見せた。しかしその後、美術史家やオークションハウス、大コレクターなど様々なアート界のプレイヤーたちと関係しながら、最終的に510億円の絵画へと発展していく。
『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』では、実際に 《サルバドール・ムンディ》を見つけた美術商やクリスティーズの関係者、作品を鑑定した美術史家、富豪コレクターへ購入を促すアドバイザー、展示に意欲的な美術館関係者など、多数のインタビューで構成。この作品が流転していく顛末が時系列で描かれている。こうしたインタビューからは、アート界の業界構造やマーケットの不透明さ、そして美術作品の価値基準など、様々な要素を見いだせる。
《サルバドール・ムンディ》が一般公開される日が来るのかは定かではない。しかし、その来たるべき時のために予習しておきたい作品と言えるだろう。