1位はMoMA館長グレン・ラウリー。2019年アート界の「Power 100」ランキングが発表

イギリスの現代美術誌『ArtReview』が毎年発表する、現代美術界でもっとも影響力のある人物100組をランク付けした「Power 100」。その2019年のランキングが発表された。

 

グレン・ラウリー

 2002年よりイギリスの現代美術雑誌『ArtReview』が毎年発表してきた、アート界でもっとも影響力のある100組のランキング「Power 100」。その2019年版が公開された。

 今年のトップ3は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の館長グレン・ラウリー、写真家のナン・ゴールディン、ハウザー&ワース設立者のイワン・ワースとマヌエラ・ワース。

 ラウリィが率いるMoMAは今年10月、約4ヶ月の休館を経てリニューアルオープン。新たなMoMAでは、展示エリアが30パーセント増えているほか、6〜9ヶ月のサイクルでコレクションの展示替えを行うことで、展示内容の鮮度をキープすることを目指している。

 『ArtReview』では、「美術館の歴史をよりグローバルに表現し、現在そして数十年にわたって活動するアーティストの多様性をより良く表現する」としてラウリーの試みを評価。ラウリーは自身のヴィジョンを実現するため、若い世代の学芸員の育成に注力。また、世界各地のシンポジウムに登壇し、MoMAの影響力を拡大しながら、パトリシア・フェルプス・デ・シスネロスやデイヴィッド・ロックフェラー・エステートから寄贈や巨額の寄付などをMoMAにもたらした。

 2位のナン・ゴールディンは、1970年代よりアメリカのドラァグクイーンやゲイ、トランスセクシュアルの友人たちの写真を撮ってきたアーティスト。86年に写真集『性的依存のバラード(The Ballad of Sexual Dependency)』を発表し、大きな反響を呼んだ。

P.A.I.Nのウェブサイトより

 2017年、オピオイド中毒を経験したゴールディンは、オピオイド問題の事態改善を訴えるために「P.A.I.N(Prescription Addiction Intervention Now)」という団体を立ち上げ。昨年より、オピオイドの普及のきっかけをつくったサックラー一族の名を冠するメトロポリタン美術館をはじめ、グッゲンハイム美術館やルーヴル美術館、ヴィクトリア&アルバート博物館で抗議を行っていた。その結果、ナショナル・ポートレート・ギャラリーやテートなどはサックラーからの資金提供をストップさせるなどの変革をもたらした。ゴールディンのランクインは、「アートやアーティストが変化をもたらすことができることを証明している」ことが大きな理由だ。

 ニューヨークやロンドン、ロサンゼルス、香港に10の展示スペースを持つメガギャラリー「ハウザー&ワーズ」設立者のイワン・ワースとマヌエラ・ワースは、昨年12月にスイスに新しいギャラリーや書店をオープンしたほか、スコットランドのアバディーンシャーに初となるホテル「ファイアー・アームズ」を設立。また今年、2020年にスペイン・メノルカ島にアートセンターをオープンすることも発表した。

 展示スペースを積極的に拡大するいっぽう、ワース夫婦は今年より、エドワード・クラークやアニー・リーボヴィッツ、グレン・リゴン、ミカ・ロッテンバーグ、ニコラス・パーティなどのアーティストの取り扱いをスタートさせた。今回の3位へのランクインは、メガギャラリーによる影響力がますます増大していることの証だろう。

YouTubeにアップされた「Stormzy backstage at Glastonbury 2019」より(https://youtu.be/GTj6ZVdgCec)

 このほか特筆すべきは、バンクシーの2008年以来の再エントリー(19位)だ。今年6月、バンクシーはロンドンの刺殺事件増加を受け、大規模野外フェスティバル「グラストンベリー・フェスティバル」に出演したラッパー・ストームジーの衣装を制作。10月には、期間限定のオンラインショップ「Gross Domestic Product™」を正式オープン。また同月、英国議会を皮肉った絵画作品《Devolved Parliament》(2009)は、オークションで990万ポンド(約14億円)の価格で落札され、バンクシーのオークションにおける過去最高額を記録した。混迷する現代社会において、社会を風刺するバンクシーの存在感は強くなるいっぽうだ。

 また、17年の55位、18年の16位とランクを上げ続けている草間彌生は、今年さらに8位に上昇。11月28日には、草間彌生がデザインしたバルーン《Love Flies Up to the Sky》はアメリカの「メイシーズ・サンクスギヴィング・デイ・パレード」に登場予定。12月14日までデイヴィッド・ツヴィルナーNYで行われている草間の個展「Every Day I Pray for Love」は、10万人以上の来場者を集めることが予想されている。

 2022年に行われる「ドクメンタ15」の芸術監督に任命されたインドネシアのアート・コレクティブ「ルアンルパ」は、初めてPower 100にランクイン(10位)。またこのほかニューエントリーとしては、欧米の美術館コレクションの脱植民地化を主張する学者、フェルウイン・サーとベネディクト・サボワ(6位)や、アート界の権力構造に疑問を呈したニューヨークの活動家グループ「Decolonize This Place(この場所を脱植民地化させる)」(19位)などがいる。

 アート界における制度的や政治的問題に関心が集まっているいっぽう、昨年3位だった、女性へのセクシュアルハラスメントや虐待を批判するムーブメント「#MeToo」は21位に順位を下げた。

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