多田美波の没後初となる大規模回顧展が開催。約70年にわたる創作の軌跡を展覧

東京・清澄白河の東京都現代美術館で、多田美波の没後初となる大規模回顧展「多田美波—光、凛と ゆれる」が開催される。会期は8月29日〜12月6日。

多田美波《Mirage》 1989 陶板、ステンレス 多田美波研究所蔵 撮影=多田美波研究所

 東京・清澄白河の東京都現代美術館で、戦後日本において抽象彫刻家・造形作家として活躍した多田美波(1924〜2014)の大規模個展「多田美波—光、凛と ゆれる」が開催される。会期は8月29日〜12月6日。

 多田は1924年、日本統治下の台湾・高雄に生まれ朝鮮で育つ。高校在学中に朝鮮美術展覧会へ出品し入賞。1944年、女子美術専門学校(現・女子美術大学)西洋画科を卒業し、56年の第41回二科展、57年の第9回読売アンデパンダン展に油彩画を出品。57年には炭労会館のためにレリーフ《炭鉱》を制作。62年、多田美波研究所を設立した。

多田美波《炭鉱》 1957 鉄 炭労会館(1990年夕張市 石炭博物館に移設) 撮影=多田美波研究所

 多田は高度経済成長期を背景に普及した工業素材や加工技術を、芸術表現に積極的に取り入れた先駆的作家のひとりだ。制作の手跡を感じさせない無機質な表面に、光の反射や透過、屈折、揺らぎといった有機的な要素を取り込み、周囲の環境や鑑賞者の動きと呼応して表情を変える造形を生み出してきた。これらの試みは、量塊性や安定性を重視するアカデミックな具象彫刻の規範から離れ、空間や環境との関係性を志向した、戦後の抽象造形における展開に位置づけられる。

 生涯でおよそ200点の彫刻作品と、500点に及ぶ建築関連作品を手がけた多田は、 美術館という枠にとどまらず、公園、駅、市庁舎、ホテル、劇場など、都市の様々な場所に作品を残し、人々の生活空間の一部をかたちづくってきた。空に向かって伸びていくようなステンレスの彫刻や、自然の景観に馴染むガラスやアクリルの彫刻、色とりどりの光を内包する「光壁」など、その表現は素材、スケールともに多岐にわたる。

多田美波《座標》 2009 ステンレス 多田美波研究所蔵 撮影=末正真礼生
多田美波 光壁《黎明》 1970 ガラス、金属 帝国ホテル、東京 撮影=作本邦治

 本展は、彫刻をはじめ、レリーフ、緞帳、シャンデリア、ビルのファサード、照明器具まで美術・建築・デザインの領域を往還しながら活動した多田美波の仕事を総覧する、没後初となる大規模回顧展だ。外光が差し込むアトリウムを含む約1500平米の地下展示室と、隣接する屋外展示エリアを使用し、多田の約70年にわたる創作の軌跡を空間全体で展覧する。

 本展では、初期の絵画、各時代の彫刻、作家本人が「光造形」と呼んだシャンデリアを含む照明の作品などのおよそ70点に加え、建築造形のパーツ、写真、スケッチなどのアーカイブ資料も紹介される。

 さらに多田美波研究所の協力のもと、現存しない作品や建築と不可分な照明作品を一部再制作・再構成し、美術館の空間においてあらためて展示される点も見どころのひとつ。洗面台などで用いられるボールチェーンを素材としたシャンデリア「チェーンデリア」(1963)は、多田が皇居・新宮殿の光造形を委託される契機となった記念碑的作品であるが、現存しない本作を、本展のために原寸大で復元する。また、リーガロイヤルホテル大阪の光造形 《瑞雲》(1973)の一部を、制作当時のクリスタルガラス・パーツ約3000個を用いて再構成する。

多田美波 光造形《瑞雲》 1973 クリスタルガラス、ボールチェーン リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクション 撮影=作本邦治

 なお本展開催を記念して、研究者や専門家によるトークイベントが実施される。近年あらためて評価が高まりつつある多田について、その創作背景や美術史的意義を多角的に検証する機会となるだろう。

編集部

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