また、収蔵作品と他館からの借用作品を組み合わせることで、作品同士のネットワークを「海図」のように描き出す試みもなされる。90年代から2020年代という「失われた30年」を背景にした表現の豊かさが浮かび上がる構成だ。例えば、西宮市大谷記念美術館に収蔵されている藤本由紀夫《SUGAR 1》(1995)は、阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件を背景に制作され、ガラス管の中で崩れていく角砂糖によって日常の脆さや、日常と非日常が連続する現実を示している。

本展では、日本の近代史や移民の記憶をアーティストが自らの視点で読み直す作品も紹介される。高嶺格は、在日コリアンのパートナーとの関係を題材にテキストや写真を組み合わせ、個人史を通して近代の歴史を照射する。志村信裕はフランスと日本を舞台に羊毛産業をリサーチした映像作品を、原田裕規はピジン英語をテーマにした映像作品を出品し、それぞれ異なる角度から日本と世界の関わりを検証する。

さらに手塚愛子は、西陣織の職人と協働し、自身がデザインした布を織り込ませ、それを解体・再構成する作品を出品する。長崎・出島でのリサーチに基づく、江戸から近代にかけての日本の外交史を題材とする。鎖国と開国のはざまに揺れる「勇気」という概念を、自身の海外経験と重ね合わせて表現しており、京都に根ざす工芸の文脈を取り込みつつ現代美術の新たな展開を提示している。

京都国立近代美術館蔵 © Aiko Tezuka 撮影=守屋友樹



















