2019.5.7

80年代とはなんだったのか? 『美術手帖』6月号は日本のエイティーズ・アートシーンを特集

大量消費社会と好景気、 そして原発事故やエイズの脅威など、楽観主義と閉塞感が同居した80年代。この時代に日本ではどんなアートが誕生したのか? 『美術手帖』6月号は、その実態に迫る1冊となっている。

『美術手帖』2019年6月号より
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 5月7日発売の『美術手帖』6月号は、1980年代の日本のアートシーンを振り返る特集となっている。

 若い世代による新たな表現への挑戦が様々なジャンルで発生し、「ニュー・ウェイブ」とよばれる現象が思想や文化全体で起きていた80年代前半。美術の文脈では、「もの派」の70年代と、村上隆らに代表される「ネオポップ」の90年代とのはざまにあって、個々人による多様な試みが絵画、彫刻、インスタレーションなど、あらゆるジャンルで展開されていた。本特集はそうした過渡的な時期にあり、実態がとらえにくい時代の実態を明らかにしようとする試みだ。

 冒頭の「ビジュアルでたどる80年代アート・クロニクル」では、当時の代表的なアーティストたちを紹介しながら、それぞれの作家がどんなテーマで表現活動を展開していたのかを作品とともに概観する。

『美術手帖』2019年6月号より

 美術の分野における「ニュー・ウェイブ」現象の実態を探るべく、その現象の中心的な役割を担っていた場所や人物にフォーカス。関東では東京藝術大学や画廊パレルゴン、関西では京都市立芸術大学などを拠点として新たな時代を切り開いた表現者たち一人ひとりの活動に、インタビューをとおして迫る。

『美術手帖』2019年6月号より

 当時熱狂的な盛り上がりを見せていた、イラストレーションと写真の公募展「日本グラフィック展」に焦点をあてる。若者のエネルギーが集結していた同展を通して、美術だけでなく周辺のカルチャーにも多様な変化が生じていた状況を分析する。 さらに同時代のニューアカデミズムの影響から音楽、演劇、出版、アニメ、イラストレーションまで、あらゆるカルチャーと美術の影響関係も紹介する。

『美術手帖』2019年6月号より
『美術手帖』2019年6月号より

 よみもの記事の合間にある、エイティーズ・カルチャーへのオマージュとして、金氏徹平+森千裕、大山エンリコイサムといったアーティストや、表紙デザインも手がけるSTEREO TENNISらによるビジュアルページも注目だ。最後は椹木野衣による長文論考も寄せられ、この1冊を読めば、80年代のアートシーンの総覧とディテールとの両方を同時につかみとることができる。

『美術手帖』2019年6月号より

 第2特集は、80年代に続く平成の30年の美術を年表とコラムでたどる「平成の日本美術史 30年総覧」。また美術出版社による「第16回芸術評論募集」の入選作も掲載されている。80年代から現在まで、日本のアートシーンをじっくりと振り返るのに必須の1冊となっている。